島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。
第15回優秀作
中国の四川省成都市にあるパンダセンターで働く矢部楓は、同センターで唯一の日本人飼育員である。ある日、楓は自分が担当する獣舎内で、女性獣医の死体を発見する。地元警察は、高所からの転落による事故死と発表した。
一ヶ月後。北京の中央警察から捜査官が派遣されてくる。事故を再捜査するといい、楓は否応なしに、捜査官のアシスタントに任命されてしまう。
当初、的外れに見えた再捜査だったが、時間の経過と共に、次々と新事実が発覚する。なんと、女性獣医は事故死ではなく他殺だったのだ。
犯人は誰か。動機は何か。異国の地で夢を叶えた日本人女性が、北京の捜査官と共に、難事件に挑む。
この度は優秀作に選出して頂き、島田先生及び関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
私は、十年以上にわたり仕事をしつつ執筆を続け、これまでにノンフィクション作品を二冊出版しました。ただ、小説では新人賞に応募しては落選を繰り返していました。そんな中、中国で起こる事件を日本人目線で描写しつつストーリーを進めるという、今回の作風を確立できました。
今後も、自身のスタイルに磨きをかけた作品を書き続けていく決意です。(2022年10月)
第12回受賞作
2020年3月 原書房
現在はまったく別のジャンルで活動しております。
元々のミステリ系に関しても、並行してもうしばらく続ける予定です。
とはいえ、よくある流行りもののような書店でいくらでも見つけられる作品を書く予定は今後いっさいありません。
古典ノワールやケッチャムのような過激なエログロバイオレンス、アンチモダンミステリや古典的推理小説等々、現代市場から完全に切り捨てられてもう読むものがなくなったと嘆く自分含めたマイナー嗜好の読者へ向けての作品を中心に書いています。
「一度くらいなら見てやってもいいよ」という編集者さんがもしいらっしゃいましたら、こちらまでメールをいただけると嬉しいです。
latyjp@yahoo.co.jp
迅速に対応いたします。(2025年3月)
約束の小説(2020年3月 原書房)
第10回受賞作
2018年5月 講談社
2025年、巳年です。
2024年は、改めて健康について考えた年でした。激しい気温差によるものか、風邪のようなダルい症状が長引きました。そして怪我をしました。ジョギングの真似事をしていて、アスファルトの出っ張りに足を引っかけ、勢いよく前へ転んだのです。痛みと共に自分でも驚くほど両手両膝から出血し、帰途、あまり人に会わなかったことがせめてもの救いでした。怪我が治るのにひと月近くかかりました。 その後、年末にも地下鉄の階段で転びました。幸いにも打撲だけですみましたが。また家族にも、健康診断で要検査が出たり(これも幸いにも良性でした)、飼い猫にできものができて動物病院に通ったりと、色々、続きました。
そんなある日です。カフェの隣の席で、年配の(わたしより十か二十歳ほど年長と思われる)女性らがお喋りをされていました。なかのお一人がいわれたのです。「体力があったらなんでもするわ」と。当たり前のことながら、その通りだと思わず膝を打ちました。
根性ややる気を持つにも、創造を広げ、小説を書くにも体力が必要かと思います。そして、人を思いやり、慈しむ心を持ち続けることもまた、体力はいるでしょう。その年配の女性からは、まだまだやりたいことがたくさんあるのに、という声にならない呟きが聞こえた気がしました。そんなことで健康についてシミジミ考えた一年でもありました。
2025年は健康に留意し、体力を維持しつつ、読者の方に喜んでいただけるような作品を創りたい。そう願った年の始めでした。(2025年3月)
巡査たちに敬礼を(2024年3月 新潮文庫)
匣の人 巡査部長・浦貴衣子の交番事件ファイル(2024年4月 光文社)
使嗾犯 捜査一課女管理官(2024年7月 角川春樹事務所)
降格刑事(2024年8月 幻冬舎文庫)
流警 新生美術館ジャック(2024年9月 集英社文庫)
ブラックキャット(2024年10月 光文社)
虚の聖域 梓凪子の調査報告書(2024年11月 祥伝社文庫)
大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報(2025年1月 PHP文芸文庫)
第8回優秀作
2016年5月 光文社
神部市旧居留地にある古ぼけたビルの一室。そこは仮想空間『ジウロパ世界』と現実が並存する特殊な場所であった。高校生の日向アキラは、自分のアバターを操作し、遠く離れた家からそのビルの一室に遠隔アクセスした。そこで待っていたのは、セルパンという名のアバターだった。短いやりとりののち、ふたりは口論となり、ついにはアキラの操るアバターがセルパンの喉もとを刀で掻っ切ってしまう。翌日、そのビルの部屋で若い男の遺体が発見された。男は何者かに喉もとを切られ、無惨にも殺されていた。しかもその男は、昨夜セルパンを操作していたプレイヤーであるらしかった。アキラは自問する。「あれはぼくがやったのか?」。果たして男を殺害したのは、本当にアキラなのか。その答えを探るべく、アキラは行動を開始した。
もう十年近く前になりますが、島田荘司先生のサイン会にて先生からかけていただいた温かい言葉は、執筆を続ける上でいつも大きな励みとなりました。また、そのサイン会直後に立ち上がった“福ミス”は、ずっと進むべき道しるべでした。このたび「優秀作」という身に余る評価を賜り、言葉にできないほどの喜びを感じております。再び背中を押してくださった島田荘司先生と“福ミス”関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。(2016年5月)
ある晩、中一の娘に数学を教えてほしいと頼まれました。
「いいよ」
気軽に応じ、見ると方程式の問題でした。
「こんなの簡単やん」
そう豪語しつつ取り組むも、これがけっこう難しい。お酒を飲んでいたこともあり、適切な解法がなかなか見つかりません。隣には娘の顔。いぶかるでも期待するでもなく、無表情でじっとこちらを窺っています。
無言の圧力に耐えながらも格闘すること数分、ようやく答えにたどり着きました。
ああ、良かった! すっきりした!
父親の威厳をなんとか保てたことに安堵し、部屋を出ようとしたら、
「はあ⁉ なに自分で解いて勝手に満足してんのよ! 教えてよ! ていうか、なんで式とか自由に書き込んでんの?」
娘に怒られました。
本当だ。問題を解くことに夢中になるあまり、本来の目的をすっかり忘れていた……こんな調子では、娘に勉強を教えられるのも、せいぜいあと数年かもしれません。(2025年3月)
僕のアバターが斬殺ったのか (2016年5月 光文社)
幻想リアルな少女が舞う(2018年1月 光文社)