受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

麻根重次(あさねじゅうじ)

 1986年生まれ。長野県安曇野市在住。信州大学大学院で進化生物学を専攻し、その後現在まで公務員として勤務。

第16回受賞作

赤の女王の殺人

(2024年 講談社)

 市役所の市民相談室に勤務する六原あずさは、ある日、相談者の妻が密室から墜落死する現場を目撃してしまう。被害者が死の間際に残した「ナツミ」という人物を追って、刑事である夫の具樹は捜査を開始するが、その行方は杳として知れなかった。一方で、あずさの元には不可思議な相談が次々と舞い込む。施錠された納骨堂でひとつ増えた骨壺。高齢男性ばかりをつけ狙う怪しげなストーカー。重なる謎の裏には、驚きの真相があった。

著者よりひとこと

 自分が書いたミステリに、尊敬する島田荘司先生から評価をいただきたい。その一心で今回応募した作品が、思いもかけず新人賞をいただくこととなり、驚きと喜びで胸が一杯です。
 審査に携わっていただいた島田先生はじめ関係各位、また投稿前に作品を読んで感想をくれた友人たち、そして私の創作活動を励まし支えてくれた妻に、心より感謝を申し上げます。ここを新たなスタートとし、諸先輩方に追いつけるよう、精一杯頑張ります。

著作品一覧

赤の女王の殺人(2024年3月 講談社)

稲羽白菟(いなばはくと)

1975年6月20日大阪市生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。第十三回北区内田康夫ミステリー文学賞特別賞受賞。イナバハクトノサイト

第9回準優秀作

合邦の密室

2018年6月 原書房

 大阪文楽劇場、顔が崩れる毒を母に飲まされる俊徳丸の物語「摂州合邦辻」の上演中、人形の左遣いが持ち場を棄てて姿を消した。跡を追った三味線方・冨澤絃二郎は黒頭巾の下、まるで俊徳丸のように崩れた人形遣いの顔を目撃する。
 同じ頃、淡路の離島の古い芝居小屋を調査する一団、絃二郎知己の文楽劇場職員は「密室」状態の舞台裏から姿を消し、離れた岩場で転落死体となって発見される。
 「すごい人形を発見した」ーー死んだ職員は最後の電話で言い遺した。
 職員の死に疑問を抱きつつ、消えた人形遣いの行方を捜す絃二郎は一冊のノートを発見する。「私は母に毒を飲まされた。私の顔を崩した母を、私は決して許さない」ーーそのノートには、袖頭巾を被った喪服姿の母と父の生首にまつわる不気味な話が綴られていた。

著者よりひとこと

 4年前、私はミステリーの処女作を島田先生にご審査いただく幸運に与りました。入選は叶いませんでしたが、先生は温かなアドバイスをくださいました。その時、私は夢を諦めないことを心に誓いました。今回、規格外の形で手を差し伸べてくださった島田先生。懐深く新参者を迎え入れてくれた福ミス。福山市。……皆様に、心から感謝いたします。今まで私自身がミステリー文学から得てきた喜びや感動を、一日でも早く読者の方々に提供できるように精進することを、私はここに誓います。

近 況

 麻根重次さん、野島夕照さん、ご受賞おめでとうございます。今回めでたく受賞作選出と授賞式開催の運びとなり、久々に福山訪問、皆様と再会できる事を大変嬉しく思います。
 最近、ミステリーというジャンルの目指すベクトルがいささか内に向き過ぎているのではないかと少々危惧する思いがあります。それは新本格の頃から言われ続けていることかもしれませんが、近年、ミステリーを「読む人は読む」けれど「読まない人は全く読まない」──という二極化の進行のスピードが速まっているのではないか? と、愛書家の友人たちと話す折々、なんとなく肌感覚として感じることがあります。それは一個人が危惧しても仕方のないことかもしれませんが、書き手としてそのような思いのもと、この四月に文春文庫刊行の新刊では「ミステリーの文法を核としつつ、ミステリマニアの方だけではなく広く一般読者にもミステリの面白さを再発見して頂けるような」創作を目指してみました。よろしければお手に取り、その目論見の成否をご確認下さいますと幸いです。
 けど一方で、「極度に純化された新々本格ミステリ」というようなものを書いてみたいという強い思いもあります。一度こいつに書かせてみよう、と思われる向きがおられましたら、是非お気軽に声をお掛け下さい。(2024年3月)

著作品一覧

合邦の密室(2018年6月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
仮名手本殺人事件 (2020年2月 原書房)
オルレアンの魔女(2021年8月 二見書房)

植田文博(うえだふみひろ)

3月5日生まれ。熊本県生まれ。東京都在住。

第6回受賞作

経眼窩式

2014年5月 原書房

「あんたは、最低だな」  古ぼけたアパートの一室で再会した父親は、日常生活もままならない変わり果てた姿となっていた――。遠田香菜子は、そこで偶然出会った青年とともにアパートの調査を開始する。そんな彼らに、ある男が近づいていた。そしてそれを、ある女が監視していた。やがてふたりは、凶悪事件の壮大な陰謀と、初めて芽生えた感情の渦に呑み込まれてゆく。

著者よりひとこと

 欲するままに書き続け、自身の中にあるものは、裏打ちのない自信としつこさだけでした。そんな中で自分という存在を見つけていただいた皆様に、心から感謝しています。
今後は島田先生や編集者の方々の助言を得て、読んでよかったと感じていただけるものを作っていけたらと思っています。(2014年5月)

近 況

 昨年は単行本の刊行と、YouTubeアニメにてプロットを4本担当させていただきました。
 単行本は講談社より『ニケを殺す』。
 世界七不思議の一つである、オリンピアのゼウスと共にあった遺物、ニケ像を巡る物語です。事件に巻き込まれ意識不明となった妻。その妻には大きな秘密があった。そこから始まるハードボイルドテイストのミステリー。古代遺物やハードボイルドに引っかかるものがあれば、ぜひお試しください。
 YouTubeアニメは、講談社の『ハンドレッドノート スワロウテイル』。
 仕事嫌いだが、見たものをすべて記憶でき、脳内で録画のように自由自在に再生できる探偵が活躍する物語。常軌を逸したその『記憶』の力を駆使した謎解きとなっています。
 こちらはYouTubeにて無料公開しています。
 https://www.youtube.com/@SwallowTail-cq1fd
 ※概要でプロット担当者が確認できます。(2024年3月)

著作品一覧

経眼窩式(2014年5月 原書房)
エイトハンドレッド(2015年5月 原書房)
心臓のように大切な(2017年8月 原書房)
99の羊と20000の殺人(2019年8月 実業之日本社)*2017年8月原書房「心臓のように大切な」を改題・改稿
ニケを殺す(2023年5月 講談社)

一田和樹(いちだかずき)

11 月6 日生まれ。東京都出身。バンクーバー在住。

第3回受賞作

檻の中の少女

2011年4月 原書房

「息子は自殺支援サイト『ミトラス』に殺されたんです」 サイバーセキュリティ・コンサルタントの君島のもとへ老夫婦が依頼にやってきた。自殺したとされる息子の死の真実を知りたいのだという。息子はミトラスに多額の金を振り込んでもいたらしい。ミトラスは自殺志願者とその幇助者をネットを介在して結び付け、志願者が希望通り自殺出来た際に手数料が振り込まれるというシステムで、ミトラス自身はその仲介で多額の手数料をとるのだという。さまざまな情報を集め、やがて君島が「真相」を解き明かし、老夫婦の依頼に応えたとき、これまで隠されてきたほんとうの真実【エピローグ】が見え始める ─

著者よりひとこと

 このたびは素晴らしい賞を授けていただき、誠にありがとうございます。身に余る光栄です。
島田先生、羽田市長をはじめ、関係者の皆様には感謝の言葉もありません。
妻や母、私を支えてくれた人々と喜びをわかちあいたいと思います。
私たちの社会は、インターネットを中心として大きく変わりつつあります。小説の書き方、読み方も変化しています。その中にあってゆるぎない存在感を持った、先駆けとなるような作品を書いてゆきたいと思います。
最後に福山市と、福山市の皆様のさらなるご発展をお祈りいたします。(2011年5月)

近 況

 昨年に引き続き、小説を書かずに調査やレポートばかり書いていました。刻一刻と変化するサイバー空間を調査し、分析するのが楽しくて止まりません。
 おかげさまで官公庁や大学などで講演したり、研究会へ参加したりすることが増え、浅学非才の身ながらも研究者の方々とご一緒する機会に恵まれています。
 各省庁では、認知戦やデジタル影響工作対策に予算をつけ、組織を作り出しているようで突然呼ばれたりしています。自分が安全保障の仕事をすることになるとは想像もしていませんでした。人生って先が読めなくて楽しいです。まだ、しばらくは小説に戻れなさそうです。
 引き続き明治大学サイバーセキュリティ研究所の客員研究員を続けている他、ニューズウィークでコラムを連載し、某サイバーセキュリティサイトに小説(これだけ例外的に10年以上続けています)を連載しています。(2024年3月)

著作品一覧

檻の中の少女(2011年5月 原書房)
サイバーテロ 漂流少女(2012年2月 原書房)
キリストゲーム(2012年4月 講談社)
式霊の杜(2012年6月 講談社)※筆名「いちだかづき」
式霊の杜 愚者の約束(2013年3月 講談社)※筆名「いちだかづき」
サイバークライム 悪意のファネル(2013年2月 原書房)
サイバーセキュリティ読本(2013年7月 原書房)
第1巻こちら、網界辞典準備室!『電網恢々疎にして漏らさず網界辞典』準備室! (2013年10月 技術評論社・電子書籍)
もしも遠隔操作で家族が犯罪者に仕立てられたら~ネットが生み出すあたらしい冤罪の物語(2013年10月 技術評論社)
絶望トレジャー(2014年11月 原書房)
天才ハッカー安部響子と五分間の相棒(2015年1月  集英社文庫)
ネットの危険を正しく知るファミリー・セキュリティ読本」(2015年3月 原書房)
マンガで知るサイバーセキュリティ オーブンレンジは振り向かない(2015年3月 原書房)
サイバーミステリ宣言!(2015年7月 株式会社KADOKAWA:共著)
個人情報ロンダリングツール=パスワードリスト攻撃シミュレータの罠 工藤伸治の事件簿番外編(技術評論社・電子書籍)
アンダーグラウンドセキュリティー1(カドカワ・電子書籍)
ノモフォビア(キリック・電子書籍)
ベスト本格ミステリ2016 収録「サイバー空間はミステリを殺す」(アンソロジー 2016年6月  講談社)
女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険(2016年7月 集英社)
原発サイバートラップ:リアンクール・ランデブー(2016年8月 原書房)
サイバー戦争の犬たち(2016年11月 祥伝社)
サイバーセキュリティ読本【完全版】ネットで破滅しないためのサバイバルガイド(2017年5月 星海社)
御社のデータが流出していますー吹鳴寺籐子のセキュリティチェック(2017年6月 早川書房)
ウルトラハッピーディストピアジャパン 人口知能ハビタのやさしい侵略(2017年7月 星海社)
犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術(2017年8月 角川新書)
公開法廷 一億人の陪審員(2017年10月 原書房)
内通と破滅と僕の恋人―珈琲店ブラックスノウのサイバー事件簿(2017年11月 集英社)
大正地獄浪漫1(2018年8月 星海社)
原発サイバートラップ(2018年8月 集英社文庫)
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器(2018年11月 角川新書)
大正地獄浪漫2(2018年12月 星海社)
天才ハッカー安部響子と2048人の犯罪者(2019年1月 集英社)
大正地獄浪漫3(2019年8月 星海社)
義眼堂 あなたの世界の半分をいただきます(2020年2月 角川書店)
新しい世界を生きるためのサイバー社会用語辞典(2020年3月 原書房)
大正地獄浪漫4(2020年3月 星海社)
ゆびさき怪談(アンソロジー2021年7月 PHP研究所)
最新!世界の常識検定(2021年11月 集英社)
ウクライナ侵攻と情報戦(2022年7月 扶桑社)
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する(2023年3月 原書房)