受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

北里紗月(きたざとさつき)

1977年生まれ。千葉県出身。大学院で生物学を修めた後、現在は胚培養士として病院に勤務。家庭では3人の子どもを持つ母親。

第9回優秀作

さようなら、お母さん

2017年4月 講談社

 原因不明の奇病を患った兄は激痛に耐えかね、病院の窓から飛び降りて死んだ。兄の症状に納得がいかない妹の笹岡玲央は看護師から、義姉の真奈美が兄の腫れた足に巨大な蜘蛛を乗せていたと聞く。
 美しく聡明で献身的な義姉の「本当の顔」とは?玲央の幼なじみの天才毒物研究者・利根川由紀が調査に乗り出す。

著者よりひとこと

 この度は、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞において優秀作に選出していただき、心から嬉しく思います。第一子出産後から小説を書くはじめ6年が経ち、赤ん坊だった長女も今や持ち上げられないほどです。そして第三子が生まれた2016年、人生最高の瞬間が訪れました。このような機会を与えてくださった島田荘司先生や、選考委員の方々の期待を裏切らぬよう、「福ミス」の名に恥じぬよう、精一杯努力していきたいと思います。(2017年5月)

近 況

 早いもので久しぶりに福山を訪れてから一年になります。昨年語っていたプロットが、この近況報告を書いている数日前にようやく完成しました。今回もバイオホラーとサイエンスミステリーの中間のような作品で、非常に気持ちの悪い仕上がりとなっております。

 男を食らう呪われた島と蟲を祀った神社、美しき巫女の末裔、生贄として捧げられた胎児たち、手足が溶けて死んだ男たちと蟲母神信仰。島のルーツを探った先に見つかる答えとは―

 今回は今までの作品の中で最も犠牲者の数が多く、楽しんでい頂けると思います。今は次作に向けて良いアイデアがあり、早く形にしたいと考え中です。自然科学の世界は沢山の謎と魅力ある生物で溢れています。これからも、私にしか書けない作品を目指して精進していきたいです。

 日々の生活では大型犬と子供たちに振り回されていますが、子供たちが私の作品を読めるようになりました。まあまあだね、次は? など感想を頂いております。はい、頑張ります。(2025年3月)

著作品一覧

さようなら、お母さん(2017年4月 講談社)
清らかな、世界の果てで(2018年7月 講談社)
連鎖感染 chain infection(2020年12月 講談社)
アスクレピオスの断罪 Condemnation of Asclepius(2021年10月 講談社)
赫き女王 Red Alveolata Queen(2023年12月 光文社)

神谷一心(かみやいっしん)

1980年生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。2004年,行政書士試験合格。2009年,第16回電撃小説大賞にて「精恋三国志Ⅰ」で電撃文庫MAGAZINE賞を受賞。

第7回受賞作

たとえ、世界に背いても

2015年5月 講談社

 20XX年の冬,スウェーデンのストックホルムではノーベル賞受賞者を祝う晩餐会が開かれていた。祝宴の最中,ノーベル医学・生理学賞の受賞者である浅井由希子博士は,壇上で紫斑性筋硬化症候群という奇病について語り始める。彼女の息子はその奇病に冒されていたのだ。参列者の誰もが息子の治療の為に研究し続けた母親の言葉に感動した。しかし,彼女は美談の果てにこんな言葉を解き放つ。「私の息子は自殺したのではありません。長峰高校の元一年B組の生徒達に苛め殺されたのです」と。こうして,天才医学者による人類史上,未曾有の復讐劇が幕を開けた。

著者よりひとこと

 この度は「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という素晴らしい賞を頂き、光栄に思っています。島田先生、事務局の皆様、一次及び二次選考に関わって下さった皆様に心よりお礼を申し上げます。今から二十年前、まだ中学生だった頃から、いつかミステリー小説を書きたいと思っていました。そのチャンスを与えて下さった皆様の期待に応えられるようにこれからも努力していきたいと思います。(2015年5月)

近 況

 今年度の受賞者様、おめでとうございます。
 島田先生ならびに福ミス関係者の皆様、貴重な機会を設けていただき本当にありがとうございます。
 私が「たとえ、世界に背いても」で受賞させていただいてからもう十年以上経ちました。
 一年、また一年と回数が増えるたびに新たな福ミス作家が増えてうれしいです。
 近況報告ですが、特にこれといって以前と変わったことはありません。
 最近、気になっていることがあるとすれば通貨のことでしょうか。
 放っておいたら円の価値がどんどん下がってしまうのに、日本人はその弊害を認識していない方が多いようです。
 国民全てが輸出関連の産業で働いているなら円安でいいのかもしれませんが現実は違いますから。
 止まることのない円安のせいで物価がずいぶん高くなってしまいました。
 以前より暮らしにくくなったなぁ、と思いつつ穏やかに暮らしています。
 またいつか推理小説を出版したいです。
 これからもばらのまち福山ミステリー文学新人賞が末永く続くことを祈っております。(2025年3月)

著作品一覧

たとえ、世界に背いても(2015年5月 講談社)

金澤マリコ(かなざわまりこ)

千葉県生まれ。静岡県在住。上智大学文学部史学科卒。

第7回優秀作

ベンヤミン院長の古文書

2015年11月 原書房

 古文書には暗号によってアレクサンドリア図書館の蔵書の隠し場所が記されているという。新教皇ソテル二世は暗号を解いて「人類の宝」を公にしようとする。しかし守旧派らによる様々な思惑から攻撃にさらされる。ロマン溢れる本格歴史ミステリー。

著者よりひとこと

 優秀作のお知らせをいただき、たいへん光栄に思っております。島田荘司先生、選考過程でこの作品を読んでくださったすべての方々、事務局の皆様に心より感謝申しあげます。「物語を書く人になりたい」という夢を持ったのは高校生の頃だったと記憶しますが、長いこと自分には無理と思いこんでいました。いまようやくその夢が形をとりはじめたようです。書いてみてよかった! これからも力の及ぶかぎり楽しく書いていきたいと思っています。(2015年5月)

近 況

 2024年の私個人のいちばん大きな出来事は、2016年夏以来続けてきたささやかな輸入雑貨の店を年末に閉じたことでした。
 当初の店のオーナーは亡くなった夫。あれほど夢一杯でオープンしたのも束の間、わずか一年余りで病に倒れ扉の向こうの世界に行ってしまいました。迷った末に店を引き継ぐことを決めたものの「これは人生のどんな罰ゲームなんだろう?」と自問する日々でした。
 ところが閉業を決め、いよいよその日を迎えたとき、ここ数年の私の「問い」に答えが降ってきたのです。言葉にするのは難しいのですが、「この気持ちを味わうためにこれまでの全ての日々があったのだ」と腑に落ちました。
 年が明け、数年ぶりに風邪をひいて珍しく寝込みました。カウンセラーをしている知人に話したら興味深いことを教えてくれました。
 依存症の人はその最中は風邪をひかないが、回復すると風邪をひくことがよくあるというのです。「だから風邪をひくのは悪いことじゃないよ」と。吹けば飛ぶような店でも、私にとっては大いなるプレッシャー、そしてアディクションでもあったのかもしれません。ともあれ、三足のわらじが二足になった今年、一足目(二足目?)の成果を出したいものです。(2025年3月)

著作品一覧

ベンヤミン院長の古文書(2015年11月 原書房)
薬草とウインク(2017年4月 原書房)
木乃伊の都(2021年6月 光文社)

川辺純可(かわべすみか)

広島県呉市生まれ。日本女子大学文学部卒。京都府在住。

第6回優秀作

焼け跡のユディトへ

2014年11月 原書房

 戦後間もない瀬戸内のとある軍港都市を舞台に起こる連続婦女殺人事件。 被害者には能面が被せられていたという。 やがて被害者にある共通点があることが分かり、それによって「次の被害者」が絞れていくのだが……。

著者よりひとこと

 新刊が出た日は鬼のごとく野暮用を片づけ、リアルタイムで味わう幸運を噛みしめつつ、一路、島田ワールドへ! 本が厚ければ厚いほど福福。思えばずっと心躍る旅人でした。 まさにその島田先生から「優秀作」という栄誉を頂くなんて夢のようです。 いつか私も私独自の世界を創造すべく、福ミスの名に恥じぬよう日々精進を重ねてまいりたいと存じます。このたびは本当にありがとうございました。(2014年11月)

近 況

 バスツアーにはまっています。さすがに「忘年会、温泉飲み放題」は友だちを誘いますが、マイナーな神社やお寺などはひとりぼっちで参加することも。本来、乗りものではバスが一番好きなので、昔、シドニーからバース(無茶)バンコクからスコタイ(危険)を移動した際も、ひいひい言いながらそれなり楽しむことができました。私は、西脇やヘッセを愛する詩人ですから(知ってた?)同じ景色が延々と続く車窓から、脳髄で、匂いや熱を感じることができるのです。
 今年は少し、スタンスを変えることになるかと思います。できるだけ「はんなり」と。あと、「人に親切」でありたいなあ、と。サイコパス一歩手前の私には、かなり難儀なことですけれども。(2025年3月)

著作品一覧

焼け跡のユディトへ(2014年11月 原書房)
時限人形(2016年9月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
ミズチと天狗とおぼろ月の夢(2021年8月 南雲堂)
十津川警部と七枚の切符(2022年11月 論創社)
アインスタインと春待月の殺人(2024年12月 南雲堂)