受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

明利英司(めいりえいじ)

1985年6月24日鹿児島県に生まれ、幼少期を過ごし、その後、宮崎県で育つ。東京都在住。飲食店の店長をしていたが、現在は執筆に専念している。

第6回優秀作

旧校舎は茜色の迷宮

2014年8月 講談社

 一年前の秋、白石秋美の通う高校では、人気教師・宇津木が旧校舎内で何者かに殺害される事件が起きた。そして、翌年の同じ日に、こんどは秋美の慕う男性教師・小垣が同じ旧校舎から飛び降りて死亡する。怪奇話が大好きな空手部の渋谷新司と、それらの話を全く信じない生徒会長の木吉吾朗とともに、二人の死の真相に迫ろうとする秋美。 二つの事件を繋ぐ闇を追う刑事も巻き込みながら、迎えた文化祭の夜。隠され続けていた真実が、秋美の前に現れる―。

著者よりひとこと

 権威ある、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞において優秀作に選出していただき、島田荘司先生、教育委員会の皆様、選考に携わっていただいた方々に、心よりお礼を申し上げます。この結果は、まだ未熟だがひとまず腰を据えて小説を書いてみてはいかがだろうか、という言葉を投げかけられたのだと考えております。その意思を裏切らないよう、本賞がますます栄えるようなミステリーの創造に、人生を大いに使っていこうと思います。(2014年8月)

近 況

 2023年は慌ただしい年でした。まず新宿で暮らし始めました。久しぶりの引っ越しは大変でした……。とはいえ、私は料理をすることも好きですが、同時に飲食店巡りも大好きなので、お店がひしめく大都会はとても好都合。
 引っ越しとほぼ同時にしてゲーム・エンターテインメント関連会社とご縁があり、お手伝いが始まりました。トレーディングカードゲームの制作や、アニメの脚本等の執筆、ボードゲーム開発……実に様々な業務があって大変です。
 他にも忘れてはならないことがあって、小説家として初めてテレビ出演しました。趣味で経営している寿司屋『居酒屋明利』や、私が組んでいるバンド『譫言』も取り上げられて、良い思い出になりました。
 その他にも、2023年12月に最新刊『海原鮮魚店のお魚ミステリー日和』が故郷の宮崎県で催されている本屋大賞『金海堂大賞』を受賞しました。現在、続編を執筆中です。今回も魚介の豆知識一杯のミステリーに仕上げますので、お楽しみに!(2024年3月)

著作品一覧

旧校舎は茜色の迷宮(2014年8月 講談社)
幽歴探偵アカイバラ(2016年4月 講談社)
憑きもどり(2016年5月 ブログハウス)
瑠璃色の一室(2018年8月 書肆侃侃房)
指令ゲーム(2020年6月 双葉社)
海原鮮魚店のお魚ミステリー日和(2022年10月 南雲堂)

深木章子(みきあきこ)

1947年8月2日生まれ。東京都出身。東京都在住。

第3回受賞作

鬼畜の家

2011年4月 原書房

 「おとうさんはおかあさんが殺しました。おねえさんもおかあさんが殺しました。おにいさんはおかあさんと死にました。わたしはおかあさんに殺されるところでした……」 保険金目当てで家族に手をかけてゆく母親。その母親も自動車もろとも夜の海に沈み、末娘だけが生き残ることになった。 母親による巧妙な殺人計画、娘への殺人教唆、資産の収奪…… 信じがたい「鬼畜の家」の実体が、娘の口から明らかにされてゆく。

著者よりひとこと

 人は実現可能性のない夢は見ない……この言葉を知ってはいましたが、こんなにも早く夢が実現するとは思いませんでした。
人生は本当に何が起きるかわからないもので、体が不自由になり、60歳で現役を退くまでは、推理小説とはあくまでも「読む」もので、「書く」などという離れ技は、自分とは別世界の特殊な頭脳の持主がなさることだと思い込んでおりました。
 振り返れば、昨年の10月、福ミス受賞内定の電話をいただいて以来、未知との遭遇の連続です。何とか、無事この日を迎えることができましたが、今後の厳しい道程を考えますと、身が引き締まると同時にそら恐ろしい気がいたします。
 こんな頼りない新人作家ではございますが、あたたかい目で見守っていただけましたら幸いです。どうか、宜しくお願い申し上げます。(2011年5月)

近 況

 コロナ禍による引きこもり生活もここまで長引くと、足腰の衰えはもちろん、頭の回転もすっかり鈍くなった気がします。やっぱり人間には健全な社会生活が必要だと実感するこの頃です。
 福山にもすっかりご無沙汰していますが、瀬戸内の穏やかな海や薔薇祭りが懐かしいです。昨今の異常気象や、何かと騒がしい世の中が早く落ち着いてくれることを願ってやみません。(2024年3月)

著作品一覧

鬼畜の家(2011年5月 原書房/2014年4月 講談社)
衣更月家の一族(2012年3月 原書房/2015年3月 講談社文庫)
螺旋の底(2013年3月 原書房/2016年3月 講談社文庫)
殺意の構図 探偵の依頼人(2013年12月 光文社/2016年9月 光文社文庫)
敗者の告白 弁護士睦月怜の事件簿(2014年10月  KADOKAWA/2017年8月 角川文庫)
交換殺人はいかが? じいじと樹来とミステリー(2015年6月 光文社/2018年4月 光文社文庫)
ミネルヴァの報復(2015年8月 原書房/2018年9月  角川文庫)
猫には推理がよく似合う(2016年9月 KADOKAWA/2019年8月 角川文庫)
敗者の告白(2017年8月 角川書店)
消人屋敷の殺人(2017年10月 新潮社/2020年5月  新潮文庫)
消えた断章(2018年3月 光文社/2021年3月 光文社文庫)
極上の罪をあなたに(2019年9月 KADOKAWA)
欺瞞の殺意(2020年2月 原書房)
罠(2021年1月 角川文庫)
灰色の家(2023年4月 光文社)

松本寛大(まつもとかんだい)

1971年生まれ。北海道札幌市出身。札幌市在住。

第1回受賞作

玻璃の家

2009年3月 講談社

 アメリカ・マサチューセッツ州の小都市。そこにはかつてガラス製造業で財を成した富豪が、謎の死を遂げた廃屋敷があった。11歳の少年コーディは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。だが、少年は交通事故にあって以来、人の顔を認識できないという「相貌失認」の症状を抱えていた。視覚自体に問題はなく対象の顔かたちが見えてはいるものの、その識別ができないのだ。犯人は誰なのか?州警察から依頼を受けた日本人留学生・若き心理学者トーマは、記憶の変容や不完全な認識の奥から真相を探り出すために調査を開始する。真相に肉迫するにつれ明らかになる、怪死した富豪一族とこの難事件との忌まわしき因縁…。

著者よりひとこと

 本作は、少しでも新しいミステリーをという模索から生まれたものです。力が及ばなかった部分が多々あることは自覚しておりますが、栄えある福山ミステリー文学新人賞を受賞できたのも、そうした様々な模索の痕跡を評価していただいたからかもしれません。
 今後とも、ミステリーのさらなる未来へ向けての挑戦心を忘れずに、執筆に励みたいと思います。(2011年6月)

近 況

 昨年は、私が所属する探偵小説研究会名義の本が2冊刊行されました。『妄想アンソロジー式ミステリガイド』(書肆侃侃房)と、『本格ミステリ・エターナル300』(行舟文化)です。前者はおのおのの執筆者が自由にテーマを定めたミステリガイド。後者は2011年から2021年までに刊行された国内の本格ミステリ300冊を取り上げて解説を加えたものです。よろしければ過去に刊行された『本格ミステリ・クロニクル300』『本格ミステリ・ディケイド300』(ともに原書房)とあわせてお読みください。近年の国内本格の歴史が概観できることと思います。ほか、「ジャーロ」の「日本ミステリー文学大賞の軌跡」と題した連載の、鮎川哲也先生の回を担当しました。わずかなりとその業績を伝えられればと思い、書いた次第です。

     *

 今年は年頭からたいへんなニュースが飛び込んで来て、胸を痛めております。能登半島地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。(2024年3月)

著作品一覧

玻璃の家(2009年3月 講談社)
クトゥルフ・ワールドツアー クトゥルフ・ホラーショウ(2011年2月 アークライト:共著)
ミステリ・オールスターズ収録「最後の夏」(アンソロジー 2010年9月 角川書店/2012年9月 角川文庫)
妖精の墓標(2013年3月 講談社)
クトゥルフ神話TRPG クトゥルフカルト・ナウ(2013年3月 エンターブレイン:共著)
北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅(2014年5月 寿郎社:共著)
クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2015(2015年9月 エンターブレイン:共著)
クトゥルフ神話TRPG モジュラークトゥルフ(2016年11月 エンターブレイン:共著)

水生大海(みずきひろみ)

三重県出身、愛知県在住。2014年「五度目の春のヒヨコ」で第67回日本推理作家協会賞(短編部門)候補。

第1回優秀作

少女たちの羅針盤

2009年7月 原書房

 短編ホラー映画主演女優としてロケ現場にやってきたマリア。そこで監督に意味ありげに言われる。「きみ、羅針盤にいた子だよね」と。マリアに忘れさりたい過去が甦る。伝説の女子高生劇団「羅針盤」。監督はさらに言う。「一人、死んでるんだよね」 羅針盤はメンバーの死と共に活動を停止した。マリアが殺したのだった。監督はいったいどこまで知っているのか。疑心はふくらむ。 そして物語は四年前、羅針盤の誕生と死へと移ってゆく。
 本作は、2010年に映画化が決定され、福山市でロケを行い、2011年5月に全国公開されました。
 また、本作の続編となる『かいぶつのまち』も2010年7月に原書房より出版されています。

著者よりひとこと

 このたびは、第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出していただき、ありがとうございます。島田先生をはじめ、事務局の皆さま、関係者の皆さまには大変お世話になりました。
 最終選考に残れば島田先生に読んでいただくことができる、そう思ってお送りした作品が思いも寄らない栄誉を受け、今もまだ戸惑いの中におります。
 小学校のころ、家が遠かったわたしは友人たちと別れた後、図書室で借りた本の続きを空想しながら通学していました。なかでもミステリーは謎あり冒険ありと魅力に満ちた物語でした。あのころのように、続きが気になるワクワクとした物語を作り出し、誰かに楽しんでいただきたいと考えております。
 今後も精進を続け、読む人の心をとらえて離さない物語を作り続けたい、書き続けることで優秀作受賞にお応えしたい、そう思っております。(2009年3月)

近 況

 暮れに電気ヒーターが、続いて正月早々にドライヤーが壊れて、あたふたしていました。電化製品が次々に壊れる時期ってあるものですね。現在、やや怪しいのが冷蔵庫で、もしも壊れると必要となる額が大きいので、冷や冷やしています。……冷蔵庫だけに。
 閑話休題。昨年2023年は、1月に『希望のカケラ 社労士のヒナコ』(文春文庫)を、6月に『マザー/コンプレックス』(小学館文庫)を、10月に『宝の山』(光文社文庫)を出しました。『宝の山』は2020年に出版した本の文庫化ですね。加筆修正しています。
 今年2024年は、現時点で単行本2冊を予定しています。また、この3月に、2021年に出版した独立短編集、『あなたが選ぶ結末は』(双葉社)の文庫が出ます。どれも面白いので読んでくださいね。
 これからも応援よろしくお願いいたします。(2024年3月)

著作品一覧

少女たちの羅針盤(2009年7月 原書房/2011年4月 原書房/2012年9月 光文社)
かいぶつのまち(2010年7月 原書房/2013年10月  光文社)
善人マニア(2011年8月 幻冬舎)
夢玄館へようこそ(2011年11月 双葉社/2015年3月 双葉社)
転校クラブ 人魚のいた夏(2012年3月 原書房)
てのひらの記憶(2012年10月 PHP研究所)
熱望(2013年4月 文藝春秋/2020年9月 文春文庫)
エール!2 収録「五度目の春のヒヨコ」(アンソロジー 2013年4月 実業之日本社)
※同短編は、ザ・ベストミステリーズ2014 (推理小説年鑑 2014年5月 講談社)にも収録
猫とわたしの七日間 収録「まねき猫狂想曲」(アンソロジー 2013年11月 ポプラ社)
転校クラブ シャッター通りの雪女(2014年3月 原書房)
ランチ合コン探偵(2014年9月 実業之日本社)
消えない夏に僕らはいる(2014年10月 新潮社)
招運来福! まねき猫事件ノート(2014年11月 ポプラ社)
冷たい手(2015年4月 光文社/2019年3月 光文社文庫)
君と過ごした嘘つきの秋(2015年7月 新潮社)
運命は、嘘をつく(2015年10月 文藝春秋)
結城屋質店の鑑定簿 あなたの謎、預かります(2016年1月 PHP研究所)
※2012年10月 PHP研究所「てのひらの記憶」を改題
千福万来! まねき猫事件ノート 化け猫の夏、初恋の夏(2016年3月 ポプラ社)
おいしい一時間 収録「オレんちの危機を救え!」(アンソロジー 2016年3月 タイムストーリー・日本児童文学者協会編 偕成社)
教室の灯りは謎の色(2016年8月 KADOKAWA/2019年8月 角川文庫)
ランチ探偵(2016年10月 実業之日本社)
ランチ探偵 容疑者のレシピ(2016年12月 実業之日本社)
だからあなたは殺される(2017年2月 光文社/2020年2月 光文社文庫)
Life 人生、すなわち謎 ミステリー傑作選「五度目の春のヒヨコ」(2017年4月 講談社文庫)
ひよっこ社労士のヒナコ(2017年11月 文藝春秋/2019年10月 文春文庫)
新鮮 THEどんでん返し「使い勝手のいい女」(2017年12月 双葉文庫)
※同短編は、ザ・ベストミステリーズ2018 (推理小説年鑑 2018年5月 講談社)、ベスト本格ミステリ2018(2018年6月 講談社ノベルズ)、にも収録
福徳円満!まねき猫事件ノート 猫たちの生まれる街(2018年3月 ポプラ文庫ピュアフル)
17×63 鷹代航は覚えている(2018年6月 祥伝社)
僕はいつも巻きこまれる(2018年11月 講談社タイガ)
最後のページをめくるまで(2019年7月 双葉社)
きみの正義は 社労士のヒナコ(2019年10月 文藝春秋)
宝の山(2020年2月 光文社)
ノゾミくん、こっちにおいで(2020年12月 ポプラ文庫)
伝染る恐怖「二週間後の未来」(2021年2月 宝島社文庫)
オレと俺(17×63 鷹代航は覚えている 改題)(2021年4月 祥伝社文庫)
善人と天秤と殺人と(善人マニア 改題)(2021年10月 幻冬舎文庫)
あなたが選ぶ結末は(2021年10月 双葉社)
ランチ探偵 彼女は謎に恋をする(2022年2月 実業之日本社文庫)
お客様のご要望は設楽不動産営業日誌(2022年5月  朝日文庫)
女の敵には向かない職業(2022年10月 光文社)
希望のカケラ 社労士のヒナコ(2023年1月 文春文庫)
マザー/コンプレックス(2023年6月 小学館文庫)