受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

須田狗一(すだくいち)

1953年大阪市生まれ。IT会社に30年勤務後、退職。趣味で海外の推理小説を翻訳する傍ら推理小説を執筆。

第9回受賞作

神の手廻しオルガン

 1942年、ナチスの国家保安部長官ハイドリヒがプラハで暗殺される。それから72年後、犬山市の山中で、心臓をえぐられ左腕を切り落とされた老人の死体が発見される。老人はポーランド語で「手回しオルガンが死んだ」と書いた手帳を残していた。
 その頃、私、翻訳家の吉村学はたまたま出会ったポーランドの女子中学生アンカの面倒を見ていたのだが、そのアンカがある日突然ワルシャワに帰国してしまう。不思議に思った私は、ワルシャワ行きを決意するが……

著者よりひとこと

 ずっと理系畑を歩んで来て、小説を書いても読者のいない私は、ただただ島田荘司先生のミステリー愛に満ちた講評をいただきたいがために「福山ミステリー文学新人賞」に応募いたしました。その作品が皆様の目に留まり、賞をいただきましたことは、本当に身に余る光栄です。島田先生、事務局の方々には感謝の言葉もありません。いただいた貴重な機会を生かすべく、今後も創作に励みたいと思います。(2017年5月)

近 況

 ことしで七十二歳になりますが、相変わらず健康に何の支障もなく五人の孫に囲まれ充実した人生を送っています。内なる創造のエネルギーを原稿用紙に注ぐ作業も続けています。ただ干支を六周した今、何の肩書きも持たないひとりの市井の人として生きていきたいという思いが年々強くなってきております。つきましては、当福ミスの小冊子へのご報告もこれを最後とさせていただく我がままをお許しください。(2025年3月)

著作品一覧

神の手廻しオルガン(2017年5月 光文社)
徳川慶喜公への斬奸状(2018年8月 光文社)

北里紗月(きたざとさつき)

1977年生まれ。千葉県出身。大学院で生物学を修めた後、現在は胚培養士として病院に勤務。家庭では3人の子どもを持つ母親。

第9回優秀作

さようなら、お母さん

2017年4月 講談社

 原因不明の奇病を患った兄は激痛に耐えかね、病院の窓から飛び降りて死んだ。兄の症状に納得がいかない妹の笹岡玲央は看護師から、義姉の真奈美が兄の腫れた足に巨大な蜘蛛を乗せていたと聞く。
 美しく聡明で献身的な義姉の「本当の顔」とは?玲央の幼なじみの天才毒物研究者・利根川由紀が調査に乗り出す。

著者よりひとこと

 この度は、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞において優秀作に選出していただき、心から嬉しく思います。第一子出産後から小説を書くはじめ6年が経ち、赤ん坊だった長女も今や持ち上げられないほどです。そして第三子が生まれた2016年、人生最高の瞬間が訪れました。このような機会を与えてくださった島田荘司先生や、選考委員の方々の期待を裏切らぬよう、「福ミス」の名に恥じぬよう、精一杯努力していきたいと思います。(2017年5月)

近 況

 早いもので久しぶりに福山を訪れてから一年になります。昨年語っていたプロットが、この近況報告を書いている数日前にようやく完成しました。今回もバイオホラーとサイエンスミステリーの中間のような作品で、非常に気持ちの悪い仕上がりとなっております。

 男を食らう呪われた島と蟲を祀った神社、美しき巫女の末裔、生贄として捧げられた胎児たち、手足が溶けて死んだ男たちと蟲母神信仰。島のルーツを探った先に見つかる答えとは―

 今回は今までの作品の中で最も犠牲者の数が多く、楽しんでい頂けると思います。今は次作に向けて良いアイデアがあり、早く形にしたいと考え中です。自然科学の世界は沢山の謎と魅力ある生物で溢れています。これからも、私にしか書けない作品を目指して精進していきたいです。

 日々の生活では大型犬と子供たちに振り回されていますが、子供たちが私の作品を読めるようになりました。まあまあだね、次は? など感想を頂いております。はい、頑張ります。(2025年3月)

著作品一覧

さようなら、お母さん(2017年4月 講談社)
清らかな、世界の果てで(2018年7月 講談社)
連鎖感染 chain infection(2020年12月 講談社)
アスクレピオスの断罪 Condemnation of Asclepius(2021年10月 講談社)
赫き女王 Red Alveolata Queen(2023年12月 光文社)

稲羽白菟(いなばはくと)

1975年6月20日大阪市生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。第十三回北区内田康夫ミステリー文学賞特別賞受賞。イナバハクトノサイト

第9回準優秀作

合邦の密室

2018年6月 原書房

 大阪文楽劇場、顔が崩れる毒を母に飲まされる俊徳丸の物語「摂州合邦辻」の上演中、人形の左遣いが持ち場を棄てて姿を消した。跡を追った三味線方・冨澤絃二郎は黒頭巾の下、まるで俊徳丸のように崩れた人形遣いの顔を目撃する。
 同じ頃、淡路の離島の古い芝居小屋を調査する一団、絃二郎知己の文楽劇場職員は「密室」状態の舞台裏から姿を消し、離れた岩場で転落死体となって発見される。
 「すごい人形を発見した」ーー死んだ職員は最後の電話で言い遺した。
 職員の死に疑問を抱きつつ、消えた人形遣いの行方を捜す絃二郎は一冊のノートを発見する。「私は母に毒を飲まされた。私の顔を崩した母を、私は決して許さない」ーーそのノートには、袖頭巾を被った喪服姿の母と父の生首にまつわる不気味な話が綴られていた。

著者よりひとこと

 4年前、私はミステリーの処女作を島田先生にご審査いただく幸運に与りました。入選は叶いませんでしたが、先生は温かなアドバイスをくださいました。その時、私は夢を諦めないことを心に誓いました。今回、規格外の形で手を差し伸べてくださった島田先生。懐深く新参者を迎え入れてくれた福ミス。福山市。……皆様に、心から感謝いたします。今まで私自身がミステリー文学から得てきた喜びや感動を、一日でも早く読者の方々に提供できるように精進することを、私はここに誓います。(2017年5月)

近 況

 2024年、長年の憧れだった初の「文庫本」が出版されました。文春文庫『神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿』連作短編集です。

 急遽書くことになったあとがきは『合邦の密室』『仮名手本殺人事件』シリーズの劇評家名探偵・海神惣右介の「解説」という体裁で書くなど、とことん好きなことをやらせて頂いた、作者としては大満足、充実の一冊となりました。まだまだ続きの構想はありますので、シリーズ化が叶いますよう皆さま応援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

 また、昨年は「本」以外にも色々なことがありました。十一月には佐賀ミステリー作家トークイベント&サイン会にお手伝いに伺う予定だったのが、コロナ予後で欠席となった綾辻行人さんの代役で急遽登壇することになりました。竹本建治さん、京極夏彦さん、新井素子さん、稲羽……。今から考えると、よく引き受けたものだなと、我ながら恐ろしくなる安請け合いでした。また、文学フリマ東京で頒布の「阪大ビブリオ」誌第3号に『延命十句観音経』という掌編をお納めしました。同人イベントへの参加は初めてだったので、ゲスト売り子もさせて頂き、とても楽しい経験をさせて頂くことできました。是非また呼んで欲しいものです。

今は新たな「館もの」を書き始めています。引き続きご贔屓のほど。(2025年3月)

著作品一覧

合邦の密室(2018年6月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
仮名手本殺人事件 (2020年2月 原書房)
オルレアンの魔女(2021年8月 二見書房)

神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿(2024年4月 文春文庫)

松本英哉(まつもとひでや)

1974年生まれ。兵庫県出身。兵庫県在住。

第8回優秀作

僕のアバターが斬殺ったのか

2016年5月 光文社

 神部市旧居留地にある古ぼけたビルの一室。そこは仮想空間『ジウロパ世界』と現実が並存する特殊な場所であった。高校生の日向アキラは、自分のアバターを操作し、遠く離れた家からそのビルの一室に遠隔アクセスした。そこで待っていたのは、セルパンという名のアバターだった。短いやりとりののち、ふたりは口論となり、ついにはアキラの操るアバターがセルパンの喉もとを刀で掻っ切ってしまう。翌日、そのビルの部屋で若い男の遺体が発見された。男は何者かに喉もとを切られ、無惨にも殺されていた。しかもその男は、昨夜セルパンを操作していたプレイヤーであるらしかった。アキラは自問する。「あれはぼくがやったのか?」。果たして男を殺害したのは、本当にアキラなのか。その答えを探るべく、アキラは行動を開始した。

著者よりひとこと

 もう十年近く前になりますが、島田荘司先生のサイン会にて先生からかけていただいた温かい言葉は、執筆を続ける上でいつも大きな励みとなりました。また、そのサイン会直後に立ち上がった“福ミス”は、ずっと進むべき道しるべでした。このたび「優秀作」という身に余る評価を賜り、言葉にできないほどの喜びを感じております。再び背中を押してくださった島田荘司先生と“福ミス”関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。(2016年5月)

近 況

 ある晩、中一の娘に数学を教えてほしいと頼まれました。
 「いいよ」
 気軽に応じ、見ると方程式の問題でした。
 「こんなの簡単やん」
 そう豪語しつつ取り組むも、これがけっこう難しい。お酒を飲んでいたこともあり、適切な解法がなかなか見つかりません。隣には娘の顔。いぶかるでも期待するでもなく、無表情でじっとこちらを窺っています。
 無言の圧力に耐えながらも格闘すること数分、ようやく答えにたどり着きました。
 ああ、良かった! すっきりした!
 父親の威厳をなんとか保てたことに安堵し、部屋を出ようとしたら、
「はあ⁉ なに自分で解いて勝手に満足してんのよ! 教えてよ! ていうか、なんで式とか自由に書き込んでんの?」
 娘に怒られました。
 本当だ。問題を解くことに夢中になるあまり、本来の目的をすっかり忘れていた……こんな調子では、娘に勉強を教えられるのも、せいぜいあと数年かもしれません。(2025年3月)

著作品一覧

僕のアバターが斬殺ったのか (2016年5月 光文社)
幻想リアルな少女が舞う(2018年1月 光文社)

原進一(はらしんいち)

1948年生まれ。兵庫県神戸市出身。東京外国語大学卒。卒業と同時に全日空(株)に入社し,東京・大阪・福岡・鹿児島・オランダなどで勤務の後,2008年に定年退職。現在は無職で東京都在住。

第8回受賞作

アムステルダムの詭計

2016年4月 原書房

 戦後の日本犯罪史上、最も鮮烈な印象を残したのは1968年に起きた「三億円事件」であろう。しかし、日本人だけでなく広く世界中の人々の注目を集めた点では、1965年に起きた「アムステルダム運河殺人事件」が勝っている。1965年夏、アムステルダムの運河に浮かんだ日本人死体は頭部・両脚・手首が切断され、胴体だけがトランクに詰められて発見された。当時、新進推理作家として文壇に登場した松本清張氏は本事件を小説化するに当たって綿密に取材し、被害者が替え玉であるとの説を唱えた。しかし、しばらくして自説を撤回するに至る。ヨーロッパの警察機構に加えインターポールも捜査に参画したが、事件は迷宮入りの様相を呈する。(実際に発生した事件を基にしたフィクション)

著者よりひとこと

 「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」には、その独特な選考手法に注目していた。それは「敗者復活」のルートが用意されていたからである。選考過程が単にふるいに掛けようとするものではなく、作者の懸命さを見逃すまいとする姿勢に島田荘司先生をはじめ選者の人々の心意気が垣間見え、憧れを抱いていた。「もの書き」はスポーツ選手と同様で、試合に出場することで成長できると確信している。ピッチに立たせてもらえたことを大変光栄に思う。(2016年5月)

近 況

 近く入院するので、蒲団の上で安静にして気に入りの読書に耽っている。サリンジャーの「ライ麦畑で捕まえて」を読み返している。
 昨年は初孫が生まれ、六カ月になった。子供はよく動く。 私は抱っこできない。座ってミルクを飲ませることだけ許されている。孫は無条件に可愛い。おしっこをしてもあくびをしても、私の眼尻は下がりっぱなしだろう。長生きしてたら、ひょんなことから幸運に恵まれた。
 私は1月下旬に一週間程度入院する。前立腺肥大のため手術を受る。全身麻酔になる。術後目が覚めなかったら、どうしようと時々不安になる。家内は気楽に語りかける。
 「頻尿がおさまるんだから、いいんじゃない」
 「手術を受けるのは、オレだぞ。心配じゃないのか」とむっとしたら
 「今の医学はすすんでいるから、元気に退院できるわよ!」
 背中をポンポンと軽く叩かれる。(仕方ない。頑張るしかないか)(今年も一発屋作家と云われないよう頑張ろうか)
 ライ麦畑で遊ぶ子供たちが落っこちそうになると、サッと出て行って抱きしめる私の仕事。サリンジャーの本に遊びに出かけるとしよう。(2024年3月)

著作品一覧

アムステルダムの詭計(2016年4月 原書房)

神谷一心(かみやいっしん)

1980年生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。2004年,行政書士試験合格。2009年,第16回電撃小説大賞にて「精恋三国志Ⅰ」で電撃文庫MAGAZINE賞を受賞。

第7回受賞作

たとえ、世界に背いても

2015年5月 講談社

 20XX年の冬,スウェーデンのストックホルムではノーベル賞受賞者を祝う晩餐会が開かれていた。祝宴の最中,ノーベル医学・生理学賞の受賞者である浅井由希子博士は,壇上で紫斑性筋硬化症候群という奇病について語り始める。彼女の息子はその奇病に冒されていたのだ。参列者の誰もが息子の治療の為に研究し続けた母親の言葉に感動した。しかし,彼女は美談の果てにこんな言葉を解き放つ。「私の息子は自殺したのではありません。長峰高校の元一年B組の生徒達に苛め殺されたのです」と。こうして,天才医学者による人類史上,未曾有の復讐劇が幕を開けた。

著者よりひとこと

 この度は「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という素晴らしい賞を頂き、光栄に思っています。島田先生、事務局の皆様、一次及び二次選考に関わって下さった皆様に心よりお礼を申し上げます。今から二十年前、まだ中学生だった頃から、いつかミステリー小説を書きたいと思っていました。そのチャンスを与えて下さった皆様の期待に応えられるようにこれからも努力していきたいと思います。(2015年5月)

近 況

 今年度の受賞者様、おめでとうございます。
 島田先生ならびに福ミス関係者の皆様、貴重な機会を設けていただき本当にありがとうございます。
 私が「たとえ、世界に背いても」で受賞させていただいてからもう十年以上経ちました。
 一年、また一年と回数が増えるたびに新たな福ミス作家が増えてうれしいです。
 近況報告ですが、特にこれといって以前と変わったことはありません。
 最近、気になっていることがあるとすれば通貨のことでしょうか。
 放っておいたら円の価値がどんどん下がってしまうのに、日本人はその弊害を認識していない方が多いようです。
 国民全てが輸出関連の産業で働いているなら円安でいいのかもしれませんが現実は違いますから。
 止まることのない円安のせいで物価がずいぶん高くなってしまいました。
 以前より暮らしにくくなったなぁ、と思いつつ穏やかに暮らしています。
 またいつか推理小説を出版したいです。
 これからもばらのまち福山ミステリー文学新人賞が末永く続くことを祈っております。(2025年3月)

著作品一覧

たとえ、世界に背いても(2015年5月 講談社)

金澤マリコ(かなざわまりこ)

千葉県生まれ。静岡県在住。上智大学文学部史学科卒。

第7回優秀作

ベンヤミン院長の古文書

2015年11月 原書房

 古文書には暗号によってアレクサンドリア図書館の蔵書の隠し場所が記されているという。新教皇ソテル二世は暗号を解いて「人類の宝」を公にしようとする。しかし守旧派らによる様々な思惑から攻撃にさらされる。ロマン溢れる本格歴史ミステリー。

著者よりひとこと

 優秀作のお知らせをいただき、たいへん光栄に思っております。島田荘司先生、選考過程でこの作品を読んでくださったすべての方々、事務局の皆様に心より感謝申しあげます。「物語を書く人になりたい」という夢を持ったのは高校生の頃だったと記憶しますが、長いこと自分には無理と思いこんでいました。いまようやくその夢が形をとりはじめたようです。書いてみてよかった! これからも力の及ぶかぎり楽しく書いていきたいと思っています。(2015年5月)

近 況

 2024年の私個人のいちばん大きな出来事は、2016年夏以来続けてきたささやかな輸入雑貨の店を年末に閉じたことでした。
 当初の店のオーナーは亡くなった夫。あれほど夢一杯でオープンしたのも束の間、わずか一年余りで病に倒れ扉の向こうの世界に行ってしまいました。迷った末に店を引き継ぐことを決めたものの「これは人生のどんな罰ゲームなんだろう?」と自問する日々でした。
 ところが閉業を決め、いよいよその日を迎えたとき、ここ数年の私の「問い」に答えが降ってきたのです。言葉にするのは難しいのですが、「この気持ちを味わうためにこれまでの全ての日々があったのだ」と腑に落ちました。
 年が明け、数年ぶりに風邪をひいて珍しく寝込みました。カウンセラーをしている知人に話したら興味深いことを教えてくれました。
 依存症の人はその最中は風邪をひかないが、回復すると風邪をひくことがよくあるというのです。「だから風邪をひくのは悪いことじゃないよ」と。吹けば飛ぶような店でも、私にとっては大いなるプレッシャー、そしてアディクションでもあったのかもしれません。ともあれ、三足のわらじが二足になった今年、一足目(二足目?)の成果を出したいものです。(2025年3月)

著作品一覧

ベンヤミン院長の古文書(2015年11月 原書房)
薬草とウインク(2017年4月 原書房)
木乃伊の都(2021年6月 光文社)

植田文博(うえだふみひろ)

3月5日生まれ。熊本県生まれ。東京都在住。

第6回受賞作

経眼窩式

2014年5月 原書房

「あんたは、最低だな」  古ぼけたアパートの一室で再会した父親は、日常生活もままならない変わり果てた姿となっていた――。遠田香菜子は、そこで偶然出会った青年とともにアパートの調査を開始する。そんな彼らに、ある男が近づいていた。そしてそれを、ある女が監視していた。やがてふたりは、凶悪事件の壮大な陰謀と、初めて芽生えた感情の渦に呑み込まれてゆく。

著者よりひとこと

 欲するままに書き続け、自身の中にあるものは、裏打ちのない自信としつこさだけでした。そんな中で自分という存在を見つけていただいた皆様に、心から感謝しています。
今後は島田先生や編集者の方々の助言を得て、読んでよかったと感じていただけるものを作っていけたらと思っています。(2014年5月)

近 況

 今年は旅行先で思いがけず景色に驚くことになりました。
 ベタですがビーチです。
 沖縄やハワイでここまで驚きを感じることはありませんでした。
 想像で描いたような青と白。
 天候の巡り合わせもあったのかもしれません。
 こんなビーチが実在するのかと衝撃でした。
 場所は宮古島です。
 特に17END(ワンセブンエンド)と呼ばれるビーチが素晴らしかったです。
 機会があればおすすめです。
 今年はYouTubeアニメのプロットを二本担当させていただきました。
 左記で検索すると出てきます。よろしければご視聴お願いします。
 【ミステリー】招かれざる客のボール【スワロウテイル#14】
 【ミステリー】推定不在【スワロウテイル#15】
(2025年3月)

著作品一覧

経眼窩式(2014年5月 原書房)
エイトハンドレッド(2015年5月 原書房)
心臓のように大切な(2017年8月 原書房)
99の羊と20000の殺人(2019年8月 実業之日本社)*2017年8月原書房「心臓のように大切な」を改題・改稿
ニケを殺す(2023年5月 講談社)

川辺純可(かわべすみか)

広島県呉市生まれ。日本女子大学文学部卒。京都府在住。

第6回優秀作

焼け跡のユディトへ

2014年11月 原書房

 戦後間もない瀬戸内のとある軍港都市を舞台に起こる連続婦女殺人事件。 被害者には能面が被せられていたという。 やがて被害者にある共通点があることが分かり、それによって「次の被害者」が絞れていくのだが……。

著者よりひとこと

 新刊が出た日は鬼のごとく野暮用を片づけ、リアルタイムで味わう幸運を噛みしめつつ、一路、島田ワールドへ! 本が厚ければ厚いほど福福。思えばずっと心躍る旅人でした。 まさにその島田先生から「優秀作」という栄誉を頂くなんて夢のようです。 いつか私も私独自の世界を創造すべく、福ミスの名に恥じぬよう日々精進を重ねてまいりたいと存じます。このたびは本当にありがとうございました。(2014年11月)

近 況

 バスツアーにはまっています。さすがに「忘年会、温泉飲み放題」は友だちを誘いますが、マイナーな神社やお寺などはひとりぼっちで参加することも。本来、乗りものではバスが一番好きなので、昔、シドニーからバース(無茶)バンコクからスコタイ(危険)を移動した際も、ひいひい言いながらそれなり楽しむことができました。私は、西脇やヘッセを愛する詩人ですから(知ってた?)同じ景色が延々と続く車窓から、脳髄で、匂いや熱を感じることができるのです。
 今年は少し、スタンスを変えることになるかと思います。できるだけ「はんなり」と。あと、「人に親切」でありたいなあ、と。サイコパス一歩手前の私には、かなり難儀なことですけれども。(2025年3月)

著作品一覧

焼け跡のユディトへ(2014年11月 原書房)
時限人形(2016年9月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
ミズチと天狗とおぼろ月の夢(2021年8月 南雲堂)
十津川警部と七枚の切符(2022年11月 論創社)
アインスタインと春待月の殺人(2024年12月 南雲堂)

若月香(わかつきかおり)

広島県福山市生まれ。2004年「いま、会いにゆきます」の映画企画本「ずっと、ずっと、あなたのそばに~澪の物語~」でデビュー。2014年島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学賞優秀作「屋上と、犬と、ぼくたちと」で再デビューを果たす。

第6回優秀作

屋上と、犬と、ぼくたちと

2014年9月 光文社

 ガソリンスタンドでバイトをしている野村修司は、アパートの新聞受けに謎のメモがはさまれていることに気付く。はじめは意味のわからない内容だったが、翌週以降も届くメモを見ると、それは小学校時代に起きた不幸な出来事を指しているようだ。仲間と拾った子犬を内緒で飼っていた秋葉ビルの『屋上の屋上』から、台風の日に仲間の一人、オッタが転落して亡くなったのだ。 バイト先のミステリー好きの店長にメモを見せると、オッタの死に不審を抱き、メモの主を突き止めようと言い出すのだが―。

著者よりひとこと

 「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」発足のニュースを耳にしたときから、生まれも育ちも福山市のわたしは、いつか絶対に応募しよう!と心に決めていました。そして初めてのミステリーというチャレンジでしたが、このような賞をいただき、大変嬉しく、幸せです。島田荘司先生、そして関係者の皆様に心より感謝いたします。 今後も創作と創造をライフワークに、書き続けたいと思います。 本当にありがとうございました!(2014年9月)

近 況

 昨年は久しぶりに島田荘司先生選福山ミステリー文学新人賞の授賞式・出版記念パーティーが開催され、懐かしい友人たちとまた会えて、そして創作について語り合うことができて、とても嬉しかったです。
 書くことは孤独な作業でもあるので、たまにこうやって物語を生み出すことの様々なお話を聞いたり、笑いながら話したり、ときに共感しながら、こんな時間は本当に幸せなことだなぁと——それはコロナの時期を経た後でもあったので、余計に——感じたのでありました。(福ミス事務局の皆さま、ありがとうございました!)
 それに刺激を受けてか、昨年からクローズドサークル(もどき?)なミステリーを書き始めました。
 書くことは、楽しいです。
 書き上がったら、よかったら読んでみてください。
 出版社様、編集者様もよろしかったら、ぜひ。 世界的にあやうい今だから感じることなのかもしれませんが、物語を紡ぐというのは、ほんとうに豊かな時間なのだと痛感するのです。(2025年3月)

著作品一覧

屋上と、犬と、ぼくたちと(2014年9月 光文社)
枯渇(2023年1月 Amazon Kindle出版)