島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。
第9回優秀作
さようなら、お母さん
2017年4月 講談社
原因不明の奇病を患った兄は激痛に耐えかね、病院の窓から飛び降りて死んだ。兄の症状に納得がいかない妹の笹岡玲央は看護師から、義姉の真奈美が兄の腫れた足に巨大な蜘蛛を乗せていたと聞く。
美しく聡明で献身的な義姉の「本当の顔」とは?玲央の幼なじみの天才毒物研究者・利根川由紀が調査に乗り出す。
著者よりひとこと
この度は、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞において優秀作に選出していただき、心から嬉しく思います。第一子出産後から小説を書くはじめ6年が経ち、赤ん坊だった長女も今や持ち上げられないほどです。そして第三子が生まれた2016年、人生最高の瞬間が訪れました。このような機会を与えてくださった島田荘司先生や、選考委員の方々の期待を裏切らぬよう、「福ミス」の名に恥じぬよう、精一杯努力していきたいと思います。
近 況
今年はようやく授賞式に参加出来るようで、今から福山に行く日を心待ちにしています。
執筆の仕事としては、昨年末に初のホラー作品を世に出せました。
「赫き女王Red Alveolata Queen」は、私の大好きな進化生物学の要素が詰まったサバイバルバイオホラーです。熱帯の森、海洋生物研究所、集団怪死、動物の異常行動、極秘研究、進化の秘密。好きなものを全部乗せたお気に入りの一冊になりました。ミステリーと違い、想像力を制限なく開放出来たので、新たな発見の多い執筆時間を過ごせました。ホラーはミステリーと同じくらい好きなジャンルなので、今後もチャレンジしていきたいです。
日常生活は相変わらず、3人の子供と大型犬に振り回されながら楽しく過ごしています。サンタクロースのプレゼントは18歳まで続けると決めているのですが、長女からついに現金の要望が入り、子供の成長を実感しました。ちなみに娘の願いは聞き届けられ、クリスマスツリーに現金の入った封筒が突き刺さっていましたね。(2024年3月)
著作品一覧
さようなら、お母さん(2017年4月 講談社)
清らかな、世界の果てで(2018年7月 講談社)
連鎖感染 chain infection(2020年12月 講談社)
アスクレピオスの断罪 Condemnation of Asclepius(2021年10月 講談社)
赫き女王 Red Alveolata Queen(2023年12月 光文社)
第9回準優秀作
合邦の密室
2018年6月 原書房
大阪文楽劇場、顔が崩れる毒を母に飲まされる俊徳丸の物語「摂州合邦辻」の上演中、人形の左遣いが持ち場を棄てて姿を消した。跡を追った三味線方・冨澤絃二郎は黒頭巾の下、まるで俊徳丸のように崩れた人形遣いの顔を目撃する。
同じ頃、淡路の離島の古い芝居小屋を調査する一団、絃二郎知己の文楽劇場職員は「密室」状態の舞台裏から姿を消し、離れた岩場で転落死体となって発見される。
「すごい人形を発見した」ーー死んだ職員は最後の電話で言い遺した。
職員の死に疑問を抱きつつ、消えた人形遣いの行方を捜す絃二郎は一冊のノートを発見する。「私は母に毒を飲まされた。私の顔を崩した母を、私は決して許さない」ーーそのノートには、袖頭巾を被った喪服姿の母と父の生首にまつわる不気味な話が綴られていた。
著者よりひとこと
4年前、私はミステリーの処女作を島田先生にご審査いただく幸運に与りました。入選は叶いませんでしたが、先生は温かなアドバイスをくださいました。その時、私は夢を諦めないことを心に誓いました。今回、規格外の形で手を差し伸べてくださった島田先生。懐深く新参者を迎え入れてくれた福ミス。福山市。……皆様に、心から感謝いたします。今まで私自身がミステリー文学から得てきた喜びや感動を、一日でも早く読者の方々に提供できるように精進することを、私はここに誓います。
近 況
麻根重次さん、野島夕照さん、ご受賞おめでとうございます。今回めでたく受賞作選出と授賞式開催の運びとなり、久々に福山訪問、皆様と再会できる事を大変嬉しく思います。
最近、ミステリーというジャンルの目指すベクトルがいささか内に向き過ぎているのではないかと少々危惧する思いがあります。それは新本格の頃から言われ続けていることかもしれませんが、近年、ミステリーを「読む人は読む」けれど「読まない人は全く読まない」──という二極化の進行のスピードが速まっているのではないか? と、愛書家の友人たちと話す折々、なんとなく肌感覚として感じることがあります。それは一個人が危惧しても仕方のないことかもしれませんが、書き手としてそのような思いのもと、この四月に文春文庫刊行の新刊では「ミステリーの文法を核としつつ、ミステリマニアの方だけではなく広く一般読者にもミステリの面白さを再発見して頂けるような」創作を目指してみました。よろしければお手に取り、その目論見の成否をご確認下さいますと幸いです。
けど一方で、「極度に純化された新々本格ミステリ」というようなものを書いてみたいという強い思いもあります。一度こいつに書かせてみよう、と思われる向きがおられましたら、是非お気軽に声をお掛け下さい。(2024年3月)
著作品一覧
合邦の密室(2018年6月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
仮名手本殺人事件 (2020年2月 原書房)
オルレアンの魔女(2021年8月 二見書房)
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第8回優秀作
僕のアバターが斬殺ったのか
2016年5月 光文社
神部市旧居留地にある古ぼけたビルの一室。そこは仮想空間『ジウロパ世界』と現実が並存する特殊な場所であった。高校生の日向アキラは、自分のアバターを操作し、遠く離れた家からそのビルの一室に遠隔アクセスした。そこで待っていたのは、セルパンという名のアバターだった。短いやりとりののち、ふたりは口論となり、ついにはアキラの操るアバターがセルパンの喉もとを刀で掻っ切ってしまう。翌日、そのビルの部屋で若い男の遺体が発見された。男は何者かに喉もとを切られ、無惨にも殺されていた。しかもその男は、昨夜セルパンを操作していたプレイヤーであるらしかった。アキラは自問する。「あれはぼくがやったのか?」。果たして男を殺害したのは、本当にアキラなのか。その答えを探るべく、アキラは行動を開始した。
著者よりひとこと
もう十年近く前になりますが、島田荘司先生のサイン会にて先生からかけていただいた温かい言葉は、執筆を続ける上でいつも大きな励みとなりました。また、そのサイン会直後に立ち上がった“福ミス”は、ずっと進むべき道しるべでした。このたび「優秀作」という身に余る評価を賜り、言葉にできないほどの喜びを感じております。再び背中を押してくださった島田荘司先生と“福ミス”関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。(2016年5月)
近 況
娘が中学生になりました。
少し前までサンタクロースの存在を無邪気に信じていた子どもでしたが、成長は早いものです。
いや、娘にまだ真相を伝えていないので、ひょっとすると彼女は今もサンタの存在を信じているかもしれません。
数年前の年の暮れのこと。朝、家族でテレビを見ていると、アナウンサーがこんな話題を伝えました。
『今年もデパートではクリスマス商戦が始まりました。見てください。たくさんのおもちゃが店頭に並んでいます』
「サンタってさー」それを見ていた娘が、おもむろに言いました。「…買ってんの?」
私は返答に窮しました。さて、どう返したものか。ついにサンタの正体を告げるときが来たのか? それともなんとか誤魔化すべきか。そのとき隣にいた妻が、百点満点の答えとなる冷静なひと言。
「知らん」
あれから数年。サンタの正体に薄々勘づいているだろう娘は、「今年のプレゼント、なにかなぁ?」などと思わせぶりにつぶやいています。(2024年3月)
著作品一覧
僕のアバターが斬殺ったのか (2016年5月 光文社)
幻想リアルな少女が舞う(2018年1月 光文社)
第7回優秀作
ベンヤミン院長の古文書
2015年11月 原書房
古文書には暗号によってアレクサンドリア図書館の蔵書の隠し場所が記されているという。新教皇ソテル二世は暗号を解いて「人類の宝」を公にしようとする。しかし守旧派らによる様々な思惑から攻撃にさらされる。ロマン溢れる本格歴史ミステリー。
著者よりひとこと
優秀作のお知らせをいただき、たいへん光栄に思っております。島田荘司先生、選考過程でこの作品を読んでくださったすべての方々、事務局の皆様に心より感謝申しあげます。「物語を書く人になりたい」という夢を持ったのは高校生の頃だったと記憶しますが、長いこと自分には無理と思いこんでいました。いまようやくその夢が形をとりはじめたようです。書いてみてよかった! これからも力の及ぶかぎり楽しく書いていきたいと思っています。(2015年5月)
近 況
いわゆる「機能不全家族」で育った私にとって、読書は唯一の逃げ場だった。
「本は優しい。攻撃してこないから」
それが子供時代の私が自分に言い聞かせていた言葉で、それは今に至るまで基本的には変わらない。
小中学生の頃に読んでいたのは世界の名作文学全集だった。この全集は、私がほとんど唯一、親に自分の希望を口に出して買ってもらったものだった。本屋のおじさんが毎月バイクで届けてくれる、箱入りの分厚い本を私は待っていた。
大学生の頃、辻邦生の作品に出会いその哲学的で美しい文章に没入した。彼の世界を理解していたのかと言えばおそらくそうではなかったが、それは私にはたいした問題ではなかった。読んでいる時間そのものが至福で、残りの頁が少なくなるのが辛かった。
先日、ある人と作品について話していたとき、長いこと忘れていたこの感覚を思い出し、本という存在が私を救ってきたのだと改めて気づいた。このことを大事に胸において全力を尽くしたいと思っている。(2024年3月)
著作品一覧
ベンヤミン院長の古文書(2015年11月 原書房)
薬草とウインク(2017年4月 原書房)
木乃伊の都(2021年6月 光文社)
第6回受賞作
経眼窩式
2014年5月 原書房
「あんたは、最低だな」 古ぼけたアパートの一室で再会した父親は、日常生活もままならない変わり果てた姿となっていた――。遠田香菜子は、そこで偶然出会った青年とともにアパートの調査を開始する。そんな彼らに、ある男が近づいていた。そしてそれを、ある女が監視していた。やがてふたりは、凶悪事件の壮大な陰謀と、初めて芽生えた感情の渦に呑み込まれてゆく。
著者よりひとこと
欲するままに書き続け、自身の中にあるものは、裏打ちのない自信としつこさだけでした。そんな中で自分という存在を見つけていただいた皆様に、心から感謝しています。
今後は島田先生や編集者の方々の助言を得て、読んでよかったと感じていただけるものを作っていけたらと思っています。(2014年5月)
近 況
昨年は単行本の刊行と、YouTubeアニメにてプロットを4本担当させていただきました。
単行本は講談社より『ニケを殺す』。
世界七不思議の一つである、オリンピアのゼウスと共にあった遺物、ニケ像を巡る物語です。事件に巻き込まれ意識不明となった妻。その妻には大きな秘密があった。そこから始まるハードボイルドテイストのミステリー。古代遺物やハードボイルドに引っかかるものがあれば、ぜひお試しください。
YouTubeアニメは、講談社の『ハンドレッドノート スワロウテイル』。
仕事嫌いだが、見たものをすべて記憶でき、脳内で録画のように自由自在に再生できる探偵が活躍する物語。常軌を逸したその『記憶』の力を駆使した謎解きとなっています。
こちらはYouTubeにて無料公開しています。
https://www.youtube.com/@SwallowTail-cq1fd
※概要でプロット担当者が確認できます。(2024年3月)
著作品一覧
経眼窩式(2014年5月 原書房)
エイトハンドレッド(2015年5月 原書房)
心臓のように大切な(2017年8月 原書房)
99の羊と20000の殺人(2019年8月 実業之日本社)*2017年8月原書房「心臓のように大切な」を改題・改稿
ニケを殺す(2023年5月 講談社)
第6回優秀作
焼け跡のユディトへ
2014年11月 原書房
戦後間もない瀬戸内のとある軍港都市を舞台に起こる連続婦女殺人事件。 被害者には能面が被せられていたという。 やがて被害者にある共通点があることが分かり、それによって「次の被害者」が絞れていくのだが……。
著者よりひとこと
新刊が出た日は鬼のごとく野暮用を片づけ、リアルタイムで味わう幸運を噛みしめつつ、一路、島田ワールドへ! 本が厚ければ厚いほど福福。思えばずっと心躍る旅人でした。 まさにその島田先生から「優秀作」という栄誉を頂くなんて夢のようです。 いつか私も私独自の世界を創造すべく、福ミスの名に恥じぬよう日々精進を重ねてまいりたいと存じます。このたびは本当にありがとうございました。(2014年11月)
近 況
昨年に引き続き、金魚について。
趣味が高じ、ネットのお買い得商品に、活魚店の店頭水槽「日本海三号」(税込み178万円)が出現した夏。新種交配を生業とする、金魚売りの話を書きたいな、と思い始めました。もちろん、メインは猟奇殺人と謎解き。どこかに需要、ありませんかしらん。
さて、魚の飼育は、餌と同じくらい「水」の管理を要とします。
汚れた水を分解し、無害にしてくれるバクテリア。彼らは魚の排泄物や食べ残しを糧に生きています。バランスが崩れると、それまで無害だった常在菌までが悪さを始め、あっという間に病気が出てしまうのです。
「地球環境も同じ……」なんて、野暮なことは申しますまい。
アクアリストは、整うまでひたすら水作りに精を出します。我々の求めるバクテリアとは、「目には見えねど、確かなる恩恵」。そう、まるで「愛」のごとく、複雑で奧が深いものなのです。
あ、そういえば、水質管理のパイオニア、ウォーターエンジニアリングさんは福山発。私も長く、お世話になっています。福ミスと同じく、福山市との有り難いご縁ですね。(2024年3月)
著作品一覧
焼け跡のユディトへ(2014年11月 原書房)
時限人形(2016年9月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
ミズチと天狗とおぼろ月の夢(2021年8月 南雲堂)
十津川警部と七枚の切符(2022年11月 論創社)
第6回優秀作
屋上と、犬と、ぼくたちと
2014年9月 光文社
ガソリンスタンドでバイトをしている野村修司は、アパートの新聞受けに謎のメモがはさまれていることに気付く。はじめは意味のわからない内容だったが、翌週以降も届くメモを見ると、それは小学校時代に起きた不幸な出来事を指しているようだ。仲間と拾った子犬を内緒で飼っていた秋葉ビルの『屋上の屋上』から、台風の日に仲間の一人、オッタが転落して亡くなったのだ。 バイト先のミステリー好きの店長にメモを見せると、オッタの死に不審を抱き、メモの主を突き止めようと言い出すのだが―。
著者よりひとこと
「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」発足のニュースを耳にしたときから、生まれも育ちも福山市のわたしは、いつか絶対に応募しよう!と心に決めていました。そして初めてのミステリーというチャレンジでしたが、このような賞をいただき、大変嬉しく、幸せです。島田荘司先生、そして関係者の皆様に心より感謝いたします。 今後も創作と創造をライフワークに、書き続けたいと思います。 本当にありがとうございました!(2014年9月)
近 況
日々流れるように過ぎていきます。
コロナ中に縁あって水墨画を習い始め、執筆とは違う創作の楽しさを知りました。そのうちにデジタルイラストも描くようになり、過去の小説作品とイラストを掛け合わせてなにかできないかな、と考えた結果、昨年Amazon ダイレクトパブリッシングを利用して電子書籍に初めてチャレンジ。 その際にこれまた初めて表紙を描きました。
まぁやっぱりそこは素人ですので、物語のイメージに沿って、そしてイメージを壊さないように表現するのは難しかったです。
そしてその昨年電子出版した「枯渇」に続いて、今年もセルフ出版できればと思っています。
今回は短編ミステリー、タイトルは「父の手帳」です。
表紙はなんとか出来上がりましたが、こちらの近況報告の締め切りに間に合わせての出版は叶いませんでした。ただこの冊子がお手元に届く頃には出版されているかもしれないので、よかったら表紙だけでも見ていただけると嬉しいです。
殺人事件は起きないミステリーなのですが、わたしにとっては、こういうミステリーを書くのは初めてで、ちょっとした冒険でした。(2024年3月)
著作品一覧
屋上と、犬と、ぼくたちと(2014年9月 光文社)
枯渇(2023年1月 Amazon Kindle出版)
第6回優秀作
旧校舎は茜色の迷宮
2014年8月 講談社
一年前の秋、白石秋美の通う高校では、人気教師・宇津木が旧校舎内で何者かに殺害される事件が起きた。そして、翌年の同じ日に、こんどは秋美の慕う男性教師・小垣が同じ旧校舎から飛び降りて死亡する。怪奇話が大好きな空手部の渋谷新司と、それらの話を全く信じない生徒会長の木吉吾朗とともに、二人の死の真相に迫ろうとする秋美。 二つの事件を繋ぐ闇を追う刑事も巻き込みながら、迎えた文化祭の夜。隠され続けていた真実が、秋美の前に現れる―。
著者よりひとこと
権威ある、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞において優秀作に選出していただき、島田荘司先生、教育委員会の皆様、選考に携わっていただいた方々に、心よりお礼を申し上げます。この結果は、まだ未熟だがひとまず腰を据えて小説を書いてみてはいかがだろうか、という言葉を投げかけられたのだと考えております。その意思を裏切らないよう、本賞がますます栄えるようなミステリーの創造に、人生を大いに使っていこうと思います。(2014年8月)
著作品一覧
旧校舎は茜色の迷宮(2014年8月 講談社)
幽歴探偵アカイバラ(2016年4月 講談社)
憑きもどり(2016年5月 ブログハウス)
瑠璃色の一室(2018年8月 書肆侃侃房)
指令ゲーム(2020年6月 双葉社)
海原鮮魚店のお魚ミステリー日和(2022年10月 南雲堂)