島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。
第9回準優秀作
合邦の密室
2018年6月 原書房
大阪文楽劇場、顔が崩れる毒を母に飲まされる俊徳丸の物語「摂州合邦辻」の上演中、人形の左遣いが持ち場を棄てて姿を消した。跡を追った三味線方・冨澤絃二郎は黒頭巾の下、まるで俊徳丸のように崩れた人形遣いの顔を目撃する。
同じ頃、淡路の離島の古い芝居小屋を調査する一団、絃二郎知己の文楽劇場職員は「密室」状態の舞台裏から姿を消し、離れた岩場で転落死体となって発見される。
「すごい人形を発見した」ーー死んだ職員は最後の電話で言い遺した。
職員の死に疑問を抱きつつ、消えた人形遣いの行方を捜す絃二郎は一冊のノートを発見する。「私は母に毒を飲まされた。私の顔を崩した母を、私は決して許さない」ーーそのノートには、袖頭巾を被った喪服姿の母と父の生首にまつわる不気味な話が綴られていた。
著者よりひとこと
4年前、私はミステリーの処女作を島田先生にご審査いただく幸運に与りました。入選は叶いませんでしたが、先生は温かなアドバイスをくださいました。その時、私は夢を諦めないことを心に誓いました。今回、規格外の形で手を差し伸べてくださった島田先生。懐深く新参者を迎え入れてくれた福ミス。福山市。……皆様に、心から感謝いたします。今まで私自身がミステリー文学から得てきた喜びや感動を、一日でも早く読者の方々に提供できるように精進することを、私はここに誓います。
近 況
麻根重次さん、野島夕照さん、ご受賞おめでとうございます。今回めでたく受賞作選出と授賞式開催の運びとなり、久々に福山訪問、皆様と再会できる事を大変嬉しく思います。
最近、ミステリーというジャンルの目指すベクトルがいささか内に向き過ぎているのではないかと少々危惧する思いがあります。それは新本格の頃から言われ続けていることかもしれませんが、近年、ミステリーを「読む人は読む」けれど「読まない人は全く読まない」──という二極化の進行のスピードが速まっているのではないか? と、愛書家の友人たちと話す折々、なんとなく肌感覚として感じることがあります。それは一個人が危惧しても仕方のないことかもしれませんが、書き手としてそのような思いのもと、この四月に文春文庫刊行の新刊では「ミステリーの文法を核としつつ、ミステリマニアの方だけではなく広く一般読者にもミステリの面白さを再発見して頂けるような」創作を目指してみました。よろしければお手に取り、その目論見の成否をご確認下さいますと幸いです。
けど一方で、「極度に純化された新々本格ミステリ」というようなものを書いてみたいという強い思いもあります。一度こいつに書かせてみよう、と思われる向きがおられましたら、是非お気軽に声をお掛け下さい。(2024年3月)
著作品一覧
合邦の密室(2018年6月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
仮名手本殺人事件 (2020年2月 原書房)
オルレアンの魔女(2021年8月 二見書房)
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