受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

稲羽白菟(いなばはくと)

1975年6月20日大阪市生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。第十三回北区内田康夫ミステリー文学賞特別賞受賞。イナバハクトノサイト

第9回準優秀作

合邦の密室

2018年6月 原書房

 大阪文楽劇場、顔が崩れる毒を母に飲まされる俊徳丸の物語「摂州合邦辻」の上演中、人形の左遣いが持ち場を棄てて姿を消した。跡を追った三味線方・冨澤絃二郎は黒頭巾の下、まるで俊徳丸のように崩れた人形遣いの顔を目撃する。
 同じ頃、淡路の離島の古い芝居小屋を調査する一団、絃二郎知己の文楽劇場職員は「密室」状態の舞台裏から姿を消し、離れた岩場で転落死体となって発見される。
 「すごい人形を発見した」ーー死んだ職員は最後の電話で言い遺した。
 職員の死に疑問を抱きつつ、消えた人形遣いの行方を捜す絃二郎は一冊のノートを発見する。「私は母に毒を飲まされた。私の顔を崩した母を、私は決して許さない」ーーそのノートには、袖頭巾を被った喪服姿の母と父の生首にまつわる不気味な話が綴られていた。

著者よりひとこと

 4年前、私はミステリーの処女作を島田先生にご審査いただく幸運に与りました。入選は叶いませんでしたが、先生は温かなアドバイスをくださいました。その時、私は夢を諦めないことを心に誓いました。今回、規格外の形で手を差し伸べてくださった島田先生。懐深く新参者を迎え入れてくれた福ミス。福山市。……皆様に、心から感謝いたします。今まで私自身がミステリー文学から得てきた喜びや感動を、一日でも早く読者の方々に提供できるように精進することを、私はここに誓います。

近 況

 またまた制約の多い一年でした。状況に社会が慣れてしまったような気もしますが、兼好法師の言う通り「過ちは安き所に成りて必ず仕る事に候。」引き続いての皆様の油断ない対策とご健康を願うとともに、医療、対策に従事する方々に改めて深く感謝を申し上げたいと思います。
 さて僕の方はと申しますと、以前からイベントや企画にお声を掛けさせて頂いていたご縁で日本推理作家協会に入会し、その後、また別のイベントでご一緒していた先輩にご推薦頂き、現在、推協公式アカウントの中の人(い)として、三週に一週、SNS上で読者の皆さんと楽しく交流させて頂いたりしています。小説を書く、ということは「読者との言語的コミュニケーションへの希求」そのものであると個人的には思っていますので、こんな楽しい御役が幸運にも回ってきたことは大変うれしく光栄です。
 そして小説に関しては、これまた別のパーティー(島田先生のオペラ演奏会)でご縁を得た編集さんからお声を掛けて頂き、現在、連作短編の新作、初の書下ろし作品の準備を進めています。
 いずれも楽しいイベントやパーティーのご縁があって生まれたこと。一日も早く安心できる状況となり、また、福ミスの授賞式が賑々しく開催される日が来ることを心より願っています。(2023年3月31日)

著作品一覧

合邦の密室(2018年6月 原書房)
三毛猫ホームズと七匹の仲間たち(2019年7月 論創社)
仮名手本殺人事件 (2020年2月 原書房)
オルレアンの魔女(2021年8月 二見書房)