受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

森谷祐二(もりやゆうじ)

福島県出身、在住。

第12回受賞作

約束の小説

2020年3月 原書房

 医師の瀬野上辰史は、日本有数の名家である天城家の後継者として、かつて暮らしていた天城邸へと呼び戻された。雪深い、極寒の地にそびえ立つ、規格外の規模を誇る天城邸で辰史を待っていたのは、その帰りを快く思っていない者からの血腥い警告であった。
 やがて警告は現実となる。陸の孤島と化した天城邸で起きる連続殺人。その謎に、辰史と探偵の新谷が挑む。

著者よりひとこと

 この度は「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という素晴らしい賞をいただきまして、まことにありがとうございます。敬愛する島田先生を初め、賞の運営に携わったすべての関係者さまに心よりの感謝を申しあげます。
 長年に渡る投稿生活を経て、念願の受賞ではありますが、ここがゴールなのではなく、ここからが本当のスタートなのだと自らによくいいきかせて、さらなる努力を重ねていきたいと思います。 

近 況

 昨年は腰を痛めて通院したり、急激に視力が衰えたり、思考力が鈍ったり、気力が尽きて塞ぎこんだりと、色々と年齢的な老いを実感させられた一年でした。
 もう若い頃のような無理はできないな、とは感じつつも、創作に関してはまだ意欲が衰え切っておらず、それなりに色々な挑戦をして、成長も実感できたので、決して悪いだけの年ではなかったのかなと思います。

 そんな感じで、今年も引き続き自分なりに納得できるよう、なんとか頑張っていけたらいいなと思っています。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。(2023年3月28日)

著作品一覧

約束の小説(2020年3月 原書房)

松嶋智左(まつしまちさ)

1961年大阪府枚方市在住。2005年「北日本文学賞」,2006年「織田作之助賞」受賞。

第10回受賞作

虚の聖域 梓凪子の調査報告書

2018年5月 講談社

元警察官にして探偵・梓凪子に舞い込んだ依頼は最悪のものだった。
理由はふたつ。
ひとつは、捜査先が探偵の天敵とも言える学校であること。
もうひとつは、依頼人が、犬猿の仲である姉の未央子であること。
大喧嘩の末、凪子は未央子の息子・輝也の死を捜査することになる。
警察は自殺と判断したにもかかわらず、凶器をもった男たちに襲撃された凪子は、事件に裏があることを確信するが――。
責任を認めない教師、なにかを隠している姉、不可解な行動を繰り返す輝也の同級生――。
すべての鍵は、人々がひた隠しに守っている心のなかの“聖域”だった。

著者よりひとこと

 ミステリー小説が好きで、ずっと書き続けてきましたが、結果が出ないことに疲れ、ミステリーを書くのをやめようかと思い始めていました。今回の作品は、そんな思いと共に仕上げたものです。それが今回、このような賞をいただけたということは、私にとっては正に奇跡を見るような驚きであり、望外の喜びです。
 わたしの途絶えかけた気持ちを太い糸で繋ぎ留めてくださった、島田荘司先生や関係者の皆様に深く御礼申し上げます。このタイミングで授かったチャンスを大切にして、気持ちを新たに、更なる飛躍を目指して書き続けていこうと思います。

近 況

 2023年卯年です。もうずい分、福山を訪れていません。行動制限のなくなった今年こそはと思っていますので、良い季節にぜひ伺いたいと思います。
 さて、わたしの2022年ですが、一番のイベントはやはり、自宅リフォームでしょうか。二か月に渡る耐震補強を含めた工事で、仮住まいとして引っ越しを行いました。そうして気づいたことは、とんでもなくものがあるということと、その大半が使っていないもの、つまりなくても困らないものだったということでした。こうして人生において最初で最後と思われる断捨離を敢行しました。結論をいえばとても良かったです。すっきりしました。そして、物欲というものがなくなった気がします。その分、食欲に上乗せされた感はありますが。
 創作活動については、昨年は大変ありがたいことにいくつか作品を刊行していただけました。2023年も集中して励み、警察小説を上梓したいと思っております。気力体力の続く限り、加えてリフォームしたせいで老後の資金がない!という切羽詰まった状況を書く上での大きな推進力として頑張ります。
 一人でも多くの方に読んでいただけることを心より願っております。(2023年3月28日)

著作品一覧

虚の聖域 梓凪子の調査報告書(2018年5月 講談社)
貌のない貌 梓凪子の捜査報告書(2019年3月 講談社)
女副署長(2020年5月 新潮文庫)
匣の人(2021年4月 光文社)
女副署長 緊急配備(2021年6月 新潮文庫)
開署準備室 巡査長・野路明良(2021年9月 祥伝社文庫)
三星京香、警察辞めました(2022年6月 ハルキ文庫)
黒バイ操作隊 巡査部長・野路明良(2022年度9月 祥伝社文庫)
 女副署長 祭礼(2022年10月 新潮文庫)
 バタフライ・エフェクト・T県警警務部事件課(2022年11月 小学館)

松本寛大(まつもとかんだい)

1971年生まれ。北海道札幌市出身。札幌市在住。

第1回受賞作

玻璃の家

2009年3月 講談社

 アメリカ・マサチューセッツ州の小都市。そこにはかつてガラス製造業で財を成した富豪が、謎の死を遂げた廃屋敷があった。11歳の少年コーディは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。だが、少年は交通事故にあって以来、人の顔を認識できないという「相貌失認」の症状を抱えていた。視覚自体に問題はなく対象の顔かたちが見えてはいるものの、その識別ができないのだ。犯人は誰なのか?州警察から依頼を受けた日本人留学生・若き心理学者トーマは、記憶の変容や不完全な認識の奥から真相を探り出すために調査を開始する。真相に肉迫するにつれ明らかになる、怪死した富豪一族とこの難事件との忌まわしき因縁…。

著者よりひとこと

 本作は、少しでも新しいミステリーをという模索から生まれたものです。力が及ばなかった部分が多々あることは自覚しておりますが、栄えある福山ミステリー文学新人賞を受賞できたのも、そうした様々な模索の痕跡を評価していただいたからかもしれません。
 今後とも、ミステリーのさらなる未来へ向けての挑戦心を忘れずに、執筆に励みたいと思います。(2011年6月)

近 況

 昨年は、朝松健単行本未収録作品集『大地母神の贄』を編みました。表題作は四十年以上前に同人誌に掲載された幻の一作。巻末に詳細な解説を付しています。
 ミステリ批評の仕事も継続中。既に雑誌に掲載されたものも、単行本作業中のものもあります。『ジャーロ』に寄せた実際の犯罪を題材としたミステリの紹介は、力を込めて書かせていただきました。
 それから、北海道新聞で書評の連載を始めました。ライオネル・ホワイトの『気狂いピエロ』(ゴダールの同名映画の原作小説)やウォルター・デ・ラ・メアの『アーモンドの木』など、新聞で扱うのは比較的珍しい作品につき、自由に書かせていただいています。次に取り上げる作品はおそらくブリティッシュ・ムスリムであるヤスミン・ラーマンによる家族問題を扱った小説になりそう。多文化社会で生きる少女の苦しみは、決してわたしたちと縁遠いものではありません。(2023年3月31日)

著作品一覧

玻璃の家(2009年3月 講談社)
クトゥルフ・ワールドツアー クトゥルフ・ホラーショウ(2011年2月 アークライト:共著)
ミステリ・オールスターズ収録「最後の夏」(アンソロジー 2010年9月 角川書店/2012年9月 角川文庫)
妖精の墓標(2013年3月 講談社)
クトゥルフ神話TRPG クトゥルフカルト・ナウ(2013年3月 エンターブレイン:共著)
北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅(2014年5月 寿郎社:共著)
クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2015(2015年9月 エンターブレイン:共著)
クトゥルフ神話TRPG モジュラークトゥルフ(2016年11月 エンターブレイン:共著)

松本英哉(まつもとひでや)

1974年生まれ。兵庫県出身。兵庫県在住。

第8回優秀作

僕のアバターが斬殺ったのか

2016年5月 光文社

 神部市旧居留地にある古ぼけたビルの一室。そこは仮想空間『ジウロパ世界』と現実が並存する特殊な場所であった。高校生の日向アキラは、自分のアバターを操作し、遠く離れた家からそのビルの一室に遠隔アクセスした。そこで待っていたのは、セルパンという名のアバターだった。短いやりとりののち、ふたりは口論となり、ついにはアキラの操るアバターがセルパンの喉もとを刀で掻っ切ってしまう。翌日、そのビルの部屋で若い男の遺体が発見された。男は何者かに喉もとを切られ、無惨にも殺されていた。しかもその男は、昨夜セルパンを操作していたプレイヤーであるらしかった。アキラは自問する。「あれはぼくがやったのか?」。果たして男を殺害したのは、本当にアキラなのか。その答えを探るべく、アキラは行動を開始した。

著者よりひとこと

 もう十年近く前になりますが、島田荘司先生のサイン会にて先生からかけていただいた温かい言葉は、執筆を続ける上でいつも大きな励みとなりました。また、そのサイン会直後に立ち上がった“福ミス”は、ずっと進むべき道しるべでした。このたび「優秀作」という身に余る評価を賜り、言葉にできないほどの喜びを感じております。再び背中を押してくださった島田荘司先生と“福ミス”関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。(2016年5月)

近 況

 連作短編を仕上げるべく、短編やプロットを編集部にせっせと送っています。
 プライベートでは、小六の娘の反抗期が始まりつつあります。ときどき生意気なことを言ってきます。
 ある日、家族でクルマに乗っていたときのこと。車内ではいつも、私、妻、娘それぞれの好きな曲がランダムで流れるようにしています。私の好みは洋楽。ただ娘は洋楽が苦手らしく、いつも嫌そうな顔をします。その日も私のお気に入りが流れると、娘がうんざりしたように言いました。 「またポール・マッカートニー? 違うのに変えてよ」
 その曲は、妻との結婚式で流した思い入れのあるものでした。この曲をきっかけに、娘が少しでも洋楽に興味を持ってくれれば……そんな願いを込めて私は言いました。
「だけどこれ、ママとの結婚式でも流した思い出の曲なんやで」
 私がそう話すと、娘は驚いたように妻を見て言いました。
「え? ママ、これ結婚式で流されたん? 流されてどう思った?」

 いや、流された、て…(2023年3月31日)

著作品一覧

僕のアバターが斬殺ったのか (2016年5月 光文社)
幻想リアルな少女が舞う(2018年1月 光文社)