受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

白木健嗣(しらきけんじ)

1989年9月4日生。三重県四日市市出身。東京都墨田区在住。愛知淑徳大学にて諏訪哲史に師事し、近代文学を学ぶ。日本マイクロソフト株式会社勤務。

第14回受賞作

ヘパイストスの侍女

2022年 光文社

 あかつき自動車の自動運転車「WAVE」が試験中に事故を起こし,ドライバーの男が死亡した。そして,あかつき自動車にはサイバー攻撃で自動運転車を事故させたという脅迫文が届く。                   
 サイバー犯罪対策課の斎藤は,一課の女刑事である前之園とともに,人工知能マリス(Managed Automatic Research & Inference System)を使った世界初の捜査に乗り出した。一方あかつき自動車では社員が自殺し……。

著者よりひとこと

 この度は「島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という栄えある賞を賜り,誠に光栄に存じます。島田先生をはじめ,本賞の運営・選考に携わってくださったすべての方に厚く御礼申しあげます。          
 大学在学中に志した作家の夢は,「卒業後十年は社会で悩み苦しみなさい」という恩師の教えで一度保留となり,実際その言葉通りに悲惨な二十代を過ごす事となりました。本賞の受賞は作品だけでなく,作家となるために悩み苦しんだ人生まで肯定して頂けたように感じ,嬉しいと同時に深く安心も致しました。

近 況

2022年はデビュー作を無事に刊行することができました。福山市にて受賞記念のセレモニーを開催していただいたり,地元の四日市市でも市長への表敬訪問や書店回りをさせていただきました。
 改修工事が完了した福山城をぜひとも見に行きたいです。コロナが落ち着いた頃にまた遊びに行かせていただき,美味しいものをたくさん食べたいと思います。
小説の方は現在第二作の執筆を行っており,2023年の早いうちに出版できればと考えています。デビュー作では自身の得意なジャンルであるITを扱った作品を書かせていただきましたが,第二作はITとは少し離れた作品になる予定です。様々な題材に挑戦して,多様な作風を武器にできるようになりたいと考えております。
 仕事が忙しいことを言い訳に読書量が減ってきているため,今年はもう少し本に触れる時間を増やそうと思います。SNSやゲームをしていると無限に時間が吸い取られていくので,このあたりは自戒しなければと思っております……。(2023年3月28日)

著作品一覧

ヘパイストスの侍女(2022年3月 光文社)

酒本歩(さかもとあゆむ)

1961年、長野県生まれ。東京都在住。早稲田大学政経学部卒。
2016年、かつしか文学賞優秀賞受賞。

第11回受賞作

さよならをもう一度

2019年3月 光文社

 ドッグシッターの風太に一通の喪中はがきが届く。以前交際していた美咲の訃報だった。まだ32歳なのにと驚く。ほかの別れた恋人、蘭、エミリのことも思い出し連絡を取ろうとするが、消息がつかめない。
 別れたとは言え、三人は風太にとって大切な女性だった。彼女たちに何が起きているのか。いてもたってもいられない風太は三人のことを調べ始める。彼女たちの友人、住んでいた家、通っていた学校。しかし、彼女たちはまるで存在しなかったかのように、一切の痕跡が消えてしまっていた。
 あり得ないことに激しく動揺し、混乱する風太。消耗しつつも、彼女たちの生きた証を捜し続けるが・・・・・・。

著者よりひとこと

冒頭で主人公が出くわした謎は、作者の私も答えを見つけるまでに、書き始めてから数ヶ月かかりました。
『あり得ない謎をロジカルに解決する』。私が今作で挑戦し たことが、島田先生が唱える「本格ミステリ」の定義に通ずることに気づき、応募した次第です。
読んでくださる方が、主人公、私と同じように「あり得ない」と戸惑 い、そして解答にたどり着いたとき、「まさか」という興奮を味わっていただけたら望外の喜びです。

近 況

○令和四年は、三作目『ロスト・ドッグ』を光文社さんから出版しました。もう二年ほど犬と暮らしています。自分の経験したことに引きつけて、前作までとはタイプの異なるミステリを書けたと思っています。
○デビューしてから三年が経つわけですが、小説と自分の関わりについて、どこかに書いておきたくなり、noteにまとめました。
 小説家になるまでの試行錯誤、そして自分なりの執筆ノウハウについて約60本の記事にしました。良い振り返りが出来ました。ご興味がありましたら【酒本歩 note】で検索ください。
○現在は新作に向けて日々、構想を練っています。3作書いてみて、小説は難しい、とあらためて感じています。読者として読む方がどれだけ簡単で楽しいだろうと思うこともしばしば。
 それでも「これは」と思うテーマを見つけて、没頭してキーボードに向かうあの時間。夢幻の世を彷徨う境地は他では味わうことはできません。
 この一年も、ゆめまぼろしの世界を歩くことになりそうです。(2023年3月28日)

著作品一覧

幻の彼女(2019年3月 光文社)
幻のオリンピアン(2020年3月 光文社)
ロスト・ドッグ (2022年8月 光文社)

須田狗一(すだくいち)

1953年大阪市生まれ。IT会社に30年勤務後、退職。趣味で海外の推理小説を翻訳する傍ら推理小説を執筆。

第9回受賞作

神の手廻しオルガン

 1942年、ナチスの国家保安部長官ハイドリヒがプラハで暗殺される。それから72年後、犬山市の山中で、心臓をえぐられ左腕を切り落とされた老人の死体が発見される。老人はポーランド語で「手回しオルガンが死んだ」と書いた手帳を残していた。
 その頃、私、翻訳家の吉村学はたまたま出会ったポーランドの女子中学生アンカの面倒を見ていたのだが、そのアンカがある日突然ワルシャワに帰国してしまう。不思議に思った私は、ワルシャワ行きを決意するが……

著者よりひとこと

 ずっと理系畑を歩んで来て、小説を書いても読者のいない私は、ただただ島田荘司先生のミステリー愛に満ちた講評をいただきたいがために「福山ミステリー文学新人賞」に応募いたしました。その作品が皆様の目に留まり、賞をいただきましたことは、本当に身に余る光栄です。島田先生、事務局の方々には感謝の言葉もありません。いただいた貴重な機会を生かすべく、今後も創作に励みたいと思います。

近 況

 とうとう私も七十歳を迎え、三人の子供たちが妻と私の古希を祝ってくれました。この歳になると、これからの先の人生がはっきりと見えてしまいます。家族に囲まれて幸せではあるのですが、曖昧さのない人生。先の人生の曖昧さが実は「希望」と呼ぶものではなかったのかなあ、などと考えてしまいます。かつては一時間でできたことが二時間かかり、二、三日でできたことが二週間かかったりします。出版される予定はなくとも書き溜めているミステリーも以前は一年に三篇は書けたものが、今は一年で一篇をものにするのが精いっぱいです。
 今やミステリーは私にとって日記のようなものかもしれません。ロシアのウクライナ侵攻や地球の温暖化など、人間の愚かさを痛感する日々。その日々を原稿に書き連ねています。
 今年も胸がザワザワする日々を過ごしそうです。(2023年3月31日)

著作品一覧

神の手廻しオルガン(2017年5月 光文社)
徳川慶喜公への斬奸状(2018年8月 光文社)

嶋戸悠祐(しまとゆうすけ)

1977年1月20日生まれ。北海道出身。北海道在住。

第3回優秀作

キョウダイ

2011年8月 講談社

 主人公「私」は、妻と娘に恵まれ、仕事も順調で幸せな日々を送っていた。が、妻が持ち出した小学校時代のアルバムが人生を狂わせはじめる。それは過去を封印していた人間にとって存在してはならぬものだった。その日から恐ろしい幻影に襲われ精神的に追い詰められていった「私」は過去と対峙することに――。当時「私」には双子の兄弟がおり、北海道M市のボロアパート群、通称餓死町で悲惨な生活を送っていた......。

著者よりひとこと

 このたびは第3回福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出いただき誠にありがとうございます。
 私にとって島田先生の作品というのは本当に特別なものでした。十代の頃に島田作品と出合い、貪るように読み耽りました。目くるめくような衝撃を受けました。そして、はじめて自分で小説を書いてみたいと強く思いました。
 私は島田先生の作品に出会っていなければ小説を書くことはなかったと思います。その島田先生に優秀作として選出いただき、これ以上の栄誉はありません。とにかくこれからはその栄誉に恥じぬよう24時間、いつでも頭のどこかでミステリーのことを考え、奇想を膨らませ、研鑽を重ね、この道をどこまでも突き進む覚悟でおります。そしていつかこの賞の価値を高め、本格ミステリーというジャンルを牽引するような作家になること。大それた考えと思われるかもしれませんがデビューできた暁には、これを目標として邁進いたします。(2011年5月)

近 況

 嶋戸悠祐です。昨年は4月にひさしぶりの作品となる『裏家電』を講談社から出版することができました。
 そして今年の2月には同じ家電量販店シリーズといえる『漂流都市』を同じく講談社から出版することができました。
 次はまた家電量販店シリーズになるかかはわかりませんが、読者がドキドキワクワクするような面白い作品を書けるよう頑張ります。応援よろしくお願い致します。 (2023年3月31日)

著作品一覧

キョウダイ(2011年8月 講談社)
セカンドタウン(2013年8月 講談社)
ギキョウダイ(2017年2月 講談社)
裏家電(2022年3月 講談社)
漂流都市(2023年2月 講談社)