魅力的な設定,独自の世界観を作り上げています。しかし,トリックは凡庸で,壮大なテーマなだけにがっかりしました。そもそも「神に近い曲」がどれだけすごいものなのかがわかりませんでした。
謎を大きく複雑にしようという意気込みはすばらしいと思います。ただ,盛り込んだ要素が多い分,説明が長くなりすぎてしまったことと,謎の中心がぶれているのが残念に感じました。
一貫して犯人捜しが焦点となる純粋なミステリーで,楽しんで読むことができましたが,最初から矛盾点が多く,無理筋な小説となっています。謎解きにはリアリティも必要です。推敲時に細かく見直すようにしましょう。
トリックや細かいネタについて,しっかりと考えられていると感じましたが,鬼塚組のダークサイドや警察との癒着についてなど基本設定がさらりと流されており,納得しきれない部分が残りました。
全体を捉えづらいのは,構成に難があるのか。視点人物の混同は措くとしても,過去と現在が結びついたところで驚きや感動があるわけでもなく,ミステリー的な仕掛けがきちっと施されているわけでもなく,物足りない感じがしました。
レトロな世界観そのものは完成されていましたが,肝心のミステリー部分が物語にうまく組み込まれていないように感じました。トリックにやや無理があったように思います。また感情表現や説明も多いので,もう少し読者に想像させる余白を残したほうがいいのではないでしょうか。
タロットカードに重ねたストーリー展開はよく工夫されていて,ミステリーとしての意欲を感じます。しかしカルト集団の存在や,謎解きの独白にはやや独善的な印象を受けました。また人物造形に難があるように思い,リアリティを感じることができませんでした。
戦時中の謎をテーマにした陰鬱なムードには読ませられました。しかしミステリーとしては意外性があまりなく,真犯人も予想できてしまい残念でした。またそれらが淡々と展開していく印象なので,人間関係を丁寧に描くなど,物語性をもう少し深められれば良かったと思います。