第一次選考通過[26]| 最終選考[3]| 受賞作[2]
本格ミステリの王道をいく冒頭の展開に引き込まれ、事件も人物も魅力的に描かれていました。ラスト、人物が立ち上がるシーンをもってこられた感覚も素晴らしいです。エンターテインメントのサービス精神に溢れた書き手だと思いますが、惜しむらくはトリックの詰めの甘さ。動機、実現性、作中内リアリティがもう少し丁寧に描かれていれば……。細部を磨いていただければ、全体の輝きが増すと思います。
リーダビリティが高く文章のテンポも良く、ユーモアのセンスを感じました。しかし謎の設定や論理が弱く、ミステリとしてはやや甘いと感じます。また、キャラクター(特に主人公)の性格が不安定で魅力に欠け、カタルシスが弱かった点も残念でした。
全体としては物語になっているが、流れの起伏にかけていると思います。「ハードボイルド調」が余計な文章を生みだして、それが流れを妨げている気がします。また、途中で筋道を類推できてしまいそうで、もったいないです。最後のサプライズは某ベストセラーが頭に浮かんできます。
素晴らしい"試み"でした。やりたいことがはっきりと先にあって、そこに向かって一直線に進んでいく過程は読んでいてとても楽しいものでした。もったいなかったのは、作中で何度も瑕疵が気になり読む手が止まることと、苦労されて書かれたであろう「解答」が予想の範囲内であり、大きな驚きや小説を超えてこちらに語りかける情感がなかったことです。傷を少なくし、ラストがさらに鮮やかであれば傑作になったと感じます。
安定した文体と構成で楽しく最後まで読ませていただきましたが、登場人物全員の行動に説得力に欠ける部分があり、肝心のジョン・レノンが歩んだ人生やその最期のことを考えると、やや「素材」として扱うに終わってしまった印象を受けました。登場する固有名やモチーフにやや古さを感じ、いま書かれる意味を見出せませんでした。
ミステリーにとって、物語の構造をしっかり作り上げることが肝要です。今作であれば島に滞在する場合の食料や日数、そのときの社会状況やその人達の社会生活のこと。こうしたことをフィクションとはいえ、ある程度、リアリティのある形で提案することが読者への説得力になります。その点をしっかりと作り込んで下さい。探偵のあり方もその点を踏まえて創造して下さい。
物語の構造自体は、とても面白く読めた作品でした。また、文章も平易な言葉を使っていて、読みやすかったのも評価できました。既存の事件を元にした部分の取り扱いについてはもっと注意をした方が良かったと思います。
ややクセのある、もってまわった描写が読み進めるのを妨げているかもしれません。けれどもどこか魅力を感じるのは、「少年」が誰なのかが読むエンジンになっているからでしょう。ある種の狂気がテーマになっていますが、この物語を完成させるには納得できる加害者の造型と描写が必要になると思います。
文章はやさしくわかりやすいのですが、ややご都合主義的な運びが気になりました。また、海外の紀行文のような街の紹介は、あまりやり過ぎると物語への関心が薄れてしまいます。めずらしい毒殺のトリックはさすが専門家と感心しました。できれば設定を変えて(舞台を国内にするなど)、この仕掛けを読んでみたいと思いました。
脅迫状で始まる冒頭が専門知識に支えられており、引き込まれました。ただ、登場人物が連続して、上野、井上、井下、と似た名前が出てきてしまっています。読者が物語に集中するために登場人物名は必要最低限にして、誤読のないようにした方がよいでしょう。事件は起きているのに興味が削がれてしまう部分があるのでキャラクターを強化するとよいと思います。また関係者が殺されたかもしれないのに調べている刑事たちの反応が薄すぎる点ももったいなく思いました。ミステリーにとって容疑者の選定はとても大切ですが、そこが作者の都合に感じられてしまい、思い込みで解決したように感じられたのは残念でした。
美術作品に関してはよく調べて書けていると思います。作品の来歴を追う過程はおもしろく、名作に潜む歴史を超えた謎を明かしていくのかと期待しましたが、最終的にコンゲームにすり替わったのはもったいなく思いました。そのため、本格ミステリと呼べるトリックがなかったのも残念です。
美術、歴史の造形が深く楽しませていただきました。会話のテンポもよく、ストレスなく読むことができます。ですが、「写楽は何者か」という今作にとって一番大事なアイディアの部分で島田荘司先生をはじめ先行作品を超える意外性がなく、「今読まれるべきもの」として最後までは推すことができませんでした。
館内図を見た瞬間にトリックがほぼ分かってしまうのが残念でした。一人二役も古すぎます。謎の人物からの招待で知識人が7人も集まったり、次々と起こる殺人事件に誰も慌てなかったりと、人物の思考や感情を描けていない点も気になりました。
社会派の物語にBL要素を加えるというアイディアは新鮮で面白く読ませていただきました。ただしそれが作品として練られ、昇華されるまでには達していないように思います。ミステリに限らず物語を構成するには人物や事件などの横軸だけでなく、「謎」を追いかけるという縦軸が必要不可欠で今作にはそれが欠けていたように思います。地方都市の地縁や世代を超える因縁など、「人間の息遣い」を上手に描ける方だと思うので、ぜひ縦軸を意識し、なるべく短い枚数で書き上げるよう次回作以降がんばってください。
文章のセンスがあり、キャラクターも魅力的です。しかし、冒険ファンタジーの趣が強く、ミステリのとして評価は難しいと感じました。古代パートが長く退屈で、未知の言葉がたくさん出てくるのも読者のストレスを高めます。現代パートも進行形の事件がおこらず緊迫感に欠けます。楽しんで書いていることは伝わりますが、今後は「読者を楽しませる」ことを意識して書くことをお薦めします。
衝撃的なシーンからはじめ、読者を逃さないという試みはうまくいったと思うのですが、その後の展開が遅いため読むスピードにブレーキがかかってしまったように思います。事件の謎とその背景については読ませる分量に対して説得力を持たせることが厳しかったのではないでしょうか。せっかくの力作なのでラスト10ページを読めば中身がわかるといった作りにならないよう心がけて次回作につなげてください。
はじめの小説ということですが、文章にリズムがあり適度に軽みのある会話など、好感を持ちました。ただ、古代史や民俗史、天文に恋愛関係など、大きなテーマを詰め込みすぎたために、それに引っ張られて消化しきれず、まとまりを欠いてしまった印象です。歴史の見立てで事件を設えることは魅力的ですが、読者に相応の説得力を与えないと難しいです。もう少しテーマを絞ってチャレンジしてみてはいかがでしょう。
登場人物たちが事件へ関与しようという動機については納得でき、また、調査によって戦時下の隠された事実が明らかになる様子はスリリングでした。謎が明かされていく過程も丁寧に記されていたと思います。しかし、本格ミステリと呼べるだけのトリックが盛り込まれているかというと疑問が残りました。
舞台となる京都や香港の匂い、映画製作にまつわる逸話については惹き込まれました。しかし、物語が動き出すまでに時間がかかりすぎているように思います。メインの謎にたどり着くまでに読者が飽きてしまうのではないでしょうか。また、ラストに記される後日譚が箇条書きになっているのは興覚めなので、改善していただきたいです。
軽めの会話主体でテンポもよく、読みやすく仕上がっているのは好印象です。また、人が一瞬にして消えるという謎の提示も期待を抱かせました。ですが、この作品の仕掛けと真相にどれくらいの読者が満足するだろうかと疑問に思えます。この仕掛けにするならば、「よもや」と思わせる物語の密度や誤導が必要になると思います。
三十年以上前の出来事を詳細に記憶していたり、無意味な6桁の数字を偶然覚えていたりと、不自然でご都合主義と感じる点が多かったです。推理ではなく、直感や思い込みで物語が進行していく点も気になりました。誤字脱字やてにをはの不備も多く、全体的に推敲されていなかった印象です。
外連味のある文体が魅力的でしたが、会話文を地の文で反芻したり、聞き返したり、一言で伝わるところに一文を費やしたり、やや冗長かもしれません。小説家の仕事は小説を書くことではなく、読者の心を動かすことです。そのための手段としての小説です。描こうとされているドラマは素晴らしいので、そのドラマを信じてまっすぐ進んでいただきたかったと思います。
文章は読みやすく、工夫もされていました。ただ、全体的に思わせぶりな表現が強く、その分、物語の解決部分が、物足りなく感じてしまったのが残念でした。こうしたところを上手く整理して、連作の構造を作り上げればより高い評価ができた作品でした。