第5回 選考過程・選評応募総数89

第1次選考通過作品

kid A misunderstanding黒木隆志

選評担当編集者

残虐な描写の見事さに目を瞠りました。二つの作品舞台を,さらにそれぞれ多視点で描き切った構成力も評価します。しかし,それが狙いとしてのミスリード以上に読み手を混乱させる複雑さにもなってしまっています。

第1次選考通過作品

室戸岬のメモリアル・・・・・・杉浦由規

選評担当編集者

丁寧で清潔感のある文章とわかりやすい見取り図に激しく好感をもちました。青春小説という部分もあるせいだと思いますが,事件が起こるのがやや遅いかもしれません。すべてを病気のせいにしてしまわないほうが面白さに深みが出ると思います。

第1次選考通過作品

贖罪宮川隆

選評担当編集者

ある毒殺事件から過去の大きな事件へ物語が広がり,戦前から終戦後の混乱期をうまくいかした作品に仕上がっていました。物語の運びも事件の深みもよく描けていると思います。うまいが,やや新味には欠けたのではないでしょうか。

第1次選考通過作品

日本のクレオパトラ三吉不二夫

選評担当編集者

古代史の謎はロマンがあり,ミステリーの題材としてもおもしろく,本作も興味深く読みました。ただ,謎ときの論旨の展開がやや独善的で,テレビ番組の討論会の場を用いたことも作品の雰囲気にあわないと感じました。残念。

第1次選考通過作品

英語の勉強になる殺人事件遠野紗希

選評担当編集者

推理の過程で発揮された英語の知識や,生徒たちの瑞々しい会話は,現場の先生ならではのものでおもしろく読みました。ただ,生徒たちの素人探偵捜査を警察が受け入れるという設定に無理があり,評価を下げざるをえなかったです。

第1次選考通過作品

失認のログシステム瀬田川一葉

選評担当編集者

本格推理,そして探偵といった役どころの在り方を意識した,意欲的な作品となっています。ただし,どうしても「作者」と都合でキャラクターと事件を作ってしまっています。たとえば探偵役にすぐに警察が情報を与えてしまい,縦横無地に捜査にあたれることはありえません。一般的な読者が装丁する事件の在り方,捜査の在り方を前提に据えて執筆をしてもらえれば,飛躍的に伸びると思っています。

第1次選考通過作品

クロノスはまだ落ちていない紫月悠詩

選評担当編集者

謎の解決ヘ向けての緻密な構成が素晴らしい! ただ,登場人物と舞台装置から作者の思惑が透けて見える,意外性のない物語にも感じられました。トリックとは別の読み筋に,もう一つの謎を加えてもよかったかもしれません。

第1次選考通過作品

死の巣くう家浅岡沙織

選評担当編集者

イギリスの曰くつきの屋敷で起こる殺人,霊,家族の確執といった正統派のミステリーに正面から意欲的に取り組んでいるのに感心しました。しかし,トリックの説きあかしが冗長になってしまっていて,驚きにかけたのが残念です。大胆な省略や簡潔さが時として謎解きを洗練させます。