はじめの小説ということですが、文章にリズムがあり適度に軽みのある会話など、好感を持ちました。ただ、古代史や民俗史、天文に恋愛関係など、大きなテーマを詰め込みすぎたために、それに引っ張られて消化しきれず、まとまりを欠いてしまった印象です。歴史の見立てで事件を設えることは魅力的ですが、読者に相応の説得力を与えないと難しいです。もう少しテーマを絞ってチャレンジしてみてはいかがでしょう。
登場人物たちが事件へ関与しようという動機については納得でき、また、調査によって戦時下の隠された事実が明らかになる様子はスリリングでした。謎が明かされていく過程も丁寧に記されていたと思います。しかし、本格ミステリと呼べるだけのトリックが盛り込まれているかというと疑問が残りました。
舞台となる京都や香港の匂い、映画製作にまつわる逸話については惹き込まれました。しかし、物語が動き出すまでに時間がかかりすぎているように思います。メインの謎にたどり着くまでに読者が飽きてしまうのではないでしょうか。また、ラストに記される後日譚が箇条書きになっているのは興覚めなので、改善していただきたいです。
軽めの会話主体でテンポもよく、読みやすく仕上がっているのは好印象です。また、人が一瞬にして消えるという謎の提示も期待を抱かせました。ですが、この作品の仕掛けと真相にどれくらいの読者が満足するだろうかと疑問に思えます。この仕掛けにするならば、「よもや」と思わせる物語の密度や誤導が必要になると思います。
三十年以上前の出来事を詳細に記憶していたり、無意味な6桁の数字を偶然覚えていたりと、不自然でご都合主義と感じる点が多かったです。推理ではなく、直感や思い込みで物語が進行していく点も気になりました。誤字脱字やてにをはの不備も多く、全体的に推敲されていなかった印象です。
外連味のある文体が魅力的でしたが、会話文を地の文で反芻したり、聞き返したり、一言で伝わるところに一文を費やしたり、やや冗長かもしれません。小説家の仕事は小説を書くことではなく、読者の心を動かすことです。そのための手段としての小説です。描こうとされているドラマは素晴らしいので、そのドラマを信じてまっすぐ進んでいただきたかったと思います。
文章は読みやすく、工夫もされていました。ただ、全体的に思わせぶりな表現が強く、その分、物語の解決部分が、物足りなく感じてしまったのが残念でした。こうしたところを上手く整理して、連作の構造を作り上げればより高い評価ができた作品でした。