本格ミステリの王道をいく冒頭の展開に引き込まれ、事件も人物も魅力的に描かれていました。ラスト、人物が立ち上がるシーンをもってこられた感覚も素晴らしいです。エンターテインメントのサービス精神に溢れた書き手だと思いますが、惜しむらくはトリックの詰めの甘さ。動機、実現性、作中内リアリティがもう少し丁寧に描かれていれば……。細部を磨いていただければ、全体の輝きが増すと思います。
リーダビリティが高く文章のテンポも良く、ユーモアのセンスを感じました。しかし謎の設定や論理が弱く、ミステリとしてはやや甘いと感じます。また、キャラクター(特に主人公)の性格が不安定で魅力に欠け、カタルシスが弱かった点も残念でした。
全体としては物語になっているが、流れの起伏にかけていると思います。「ハードボイルド調」が余計な文章を生みだして、それが流れを妨げている気がします。また、途中で筋道を類推できてしまいそうで、もったいないです。最後のサプライズは某ベストセラーが頭に浮かんできます。
素晴らしい"試み"でした。やりたいことがはっきりと先にあって、そこに向かって一直線に進んでいく過程は読んでいてとても楽しいものでした。もったいなかったのは、作中で何度も瑕疵が気になり読む手が止まることと、苦労されて書かれたであろう「解答」が予想の範囲内であり、大きな驚きや小説を超えてこちらに語りかける情感がなかったことです。傷を少なくし、ラストがさらに鮮やかであれば傑作になったと感じます。
安定した文体と構成で楽しく最後まで読ませていただきましたが、登場人物全員の行動に説得力に欠ける部分があり、肝心のジョン・レノンが歩んだ人生やその最期のことを考えると、やや「素材」として扱うに終わってしまった印象を受けました。登場する固有名やモチーフにやや古さを感じ、いま書かれる意味を見出せませんでした。
ミステリーにとって、物語の構造をしっかり作り上げることが肝要です。今作であれば島に滞在する場合の食料や日数、そのときの社会状況やその人達の社会生活のこと。こうしたことをフィクションとはいえ、ある程度、リアリティのある形で提案することが読者への説得力になります。その点をしっかりと作り込んで下さい。探偵のあり方もその点を踏まえて創造して下さい。
物語の構造自体は、とても面白く読めた作品でした。また、文章も平易な言葉を使っていて、読みやすかったのも評価できました。既存の事件を元にした部分の取り扱いについてはもっと注意をした方が良かったと思います。
ややクセのある、もってまわった描写が読み進めるのを妨げているかもしれません。けれどもどこか魅力を感じるのは、「少年」が誰なのかが読むエンジンになっているからでしょう。ある種の狂気がテーマになっていますが、この物語を完成させるには納得できる加害者の造型と描写が必要になると思います。