オペラの演奏中の衆人環視の死という魅力的な謎が提示されとても期待しました。変人型天才が真相を明らかにしていきますが、とにかく登場人物がアッパーな人ばかりで、それぞれのキャラクタライズも物語と文体にそぐわない印象を持ちました。また、それぞれの手の込んだ仕掛けは状況的に必然性があったのか、そのあたりも疑問に思いました。
緊張感のある文章で最後まで手堅く読ませるピカレスクものでした。しかし、もう少し新味が欲しいです。これでは既視感のあるシーンを積み重ねた、型通りの物語に留まっています。「思わぬ血縁関係、人間関係が判明する」というラストも、もはや定番です。この作品はいわゆる本格ミステリーではありませんが、だからこそ「斬新なアイディア」が仕込んであると、読者は不意を衝かれてメチャクチャ面白く感じます。そのようなアイディアを思いつくのはもちろん大変なのですが、挑戦してみてください。
ドライブ感のある文章で(やや冗舌ですが)、キャラクターも描き分けられていて、読みやすかったです。リョウとショウの物語が意外な形で交差し、異形感や崩壊感が残る結末も印象的でした。とはいえキャラクターの感情が全てに優先し、リアリティは後回しにされている物語なので、読者を選ぶのは確かです。その間口の狭さが気になりました。
新人賞らしい熱量にあふれており、読者を楽しませようというサービス精神を感じました。回想や手紙など、冒頭のつかみは面白いのですが、その分、後半が息切れしたのではないでしょうか。力ずくで物語を閉じたように感じました。主人公の元彼女など、不必要な人物や描写もいささか多い印象です。
安定した無駄のないストーリーの運び方、主人公や周囲の人間の丁寧な描き方など、完成度の高い作品です。推理の過程に無理がなく読みやすいのですが、作品名から犯人の想像がついてしまい、その通りの結末となることが大きく評価を下げました。
よく作りこまれた成り代わり殺人もので、作者の強い意欲を感じます。ただし名探偵の頭が良すぎるのか、解決のプロセスが複雑すぎて、理解するのに時間がかかり、ワクワク感が薄れてしまうのが残念です。読者へのサービス精神に欠けるように思います。
製鉄所内の事故に企業スパイがからみ、経済小説としてもなかなか読みごたえがあります。ただし肝心のミステリーとしての謎が予測の範囲内で意外性に欠けます。もうひとひねりあれば、印象が変わったことでしょう。
リーマンショックに関わる壮大なマネーゲームを下地にしたスケール感のある作品でしたが、物語が2008年頃から始まっていることが、この今の経済の状況との乖離が感じられました。できれば今の経済状況にリンクしてもらいたかったです。