第7回福ミスの第1次選考を通過した21作品のうち,最終選考に残った4作品を除いた17作品について,選考を担当した編集者による選評を公表します。
第8回の応募に向けて執筆されている方も,ぜひ参考にしてみてください。
◆第7回福ミス第1次選考通過作品選評(最終選考作品4作は除く。)
「捩れた位相」(瞬那浩人)
連続猟奇殺人事件をふたりのジャーナリストが中心となって追うものですが,最終的に人格障害とDNA操作に落とし込んでしまったのでは,新味に欠けるし納得感もありません。むしろ主人公の描写に二面性を感じ,同じ名前の別人物の設定かとも疑いました。
「悲しみのシンフォニー」(野乃はるか)
庭に埋められていた死体が掘り返され,それとともに戦争の亡霊が蘇り,隠されてきたいくつもの行為が暴かれる。と記すといかにもですが,全体に抑揚がなく一辺倒で,登場人物が多いのに誰の台詞かわからなくなるほど似たような話し方で視点も頻繁に変わります。これでは物語が読者に伝わりません。ころっと愛人ができたり証言者が現れたりとご都合主義に感じられてしまうのは著者が上手に読者を誘導できなかったからでしょう。
「最後のテロリスト」(工藤俊)
物語の起伏に欠けていて技術的には未熟な面も多いですが,ダークな悪漢小説として,またコンゲームとして面白味があります。プロット通りに物語を進めていくだけでなく,その中に生きる人間の機微をちりばめていくと深みが増すと思います。
「めっそう」(佐藤仲造)
本格ミステリー+伝奇SFを構想していたのでしょうが,伝奇部分の超常設定とミステリー部分がまったくかみ合っていません。異能者がこれだけいながら事件への関与は「入れないところに入った」だけで,あとは刑事小説のような地味な証拠固めとアリバイ崩しでは世界を作った意味がありません。せっかく独特な神話・世界を構築しようというなら,その世界律で事件は起こり解決されるべきだと思います。
「クラウスに至る方式は」(紫月悠詩)
王道の本格ミステリーで,いろんなトリックのオンパレードでした。世界観も独自で魅力的です。「機械と人間」「人工と自然」の対立・共存というテーマも考えさせられるもので,興味惹かれました。ただ,登場人物たちがただの駒になってしまっているような印象で,もう少し背景などを描きこんで活き活きと見せることができれば,より読者を引き込めるのではないでしょうか。今のままだと「パズル」感しか残らない読後感でした。
「神在月のあしあと」(岡田浩司)
飄々とした主人公の書き方には好感がもてます。こうした人物をかけることは大事なことです。伝奇ミステリーとして読む場合の仕掛けが弱いことが残念。主人公の名前など謎の仕掛けに配慮して書いていただければと思います。
「Monsters」(光井陽子)
登場人物が活き活きと描かれ,テンポもよく,気持ちよく読み進めることができましたが,早い段階で謎がわかってしまい,ミステリーとしてはやや物足りない作品でした。
「十三回忌-唐破風荘殺人事件-」(そっこう詩人)
文章が荒く,読みづらかったです。謎の提示もわかりづらく,何をモチベーションに読めばよいのかわかりにくいです。物語全体の構成もうまくいっておらず,視点や時制がぶれることが多々あり,全体的に読みにくい印象を強めています。事件の構造自体は興味惹かれましたので,あとは構成・文章技術の問題かと思います。
「人はそれほど強くなれるのでしょうか」(工藤真)
読みやすい文体で,刑事たちのキャラクターにも好感がもてました。ただし,謎解きの過程がスピード感に欠け,もたもたした印象になってしまいました。
「デート橋の殺人」(杉浦由規)
青春ミステリーとして楽しめる作品でしたが,ねずみ講をからめる手法は新鮮さに欠け,また「モロ」という言葉が人名だと気づかない設定にも無理がありました。
「逢魔時」(祥円)
独特の世界観は作れているように思いましたが,ミステリーとしてはかなり弱い印象でした。何を謎とするのかもなかなかわかりませんし,超常現象的なものをそのまま放置してしまったり,と論理的に謎をといていく本格ミステリーとは言えない作品でした。
「替え玉」(高原山光一郎)
トライアスロンの大会作法など競技に関する知識の部分,一般に知られていないことも多く,非常に興味深く読みましたが,警察官である主人公が長期間単独捜査(しかもかなり効率の悪い方法で)をしていることで,小説全体のリアリティに疑問が生じてしまったのが残念です。
「背中で疼きし残斬」(谷門展法)
凝った仕掛けで読者を驚かそうとする意気込みに好感を持ちました。ミスリードを誘う伏線も鮮やかでしたが,肝心の写真のトリックに納得できませんでした。また,解題部分,霧島から聞いた話をもとにしているとすれば,詳細すぎて,霧島の知りえない情報が入りすぎていると感じました。
「不可視激流」(織江耕太郎)
かつての恋人に再会した途端に殺されてしまう。その真相を探っていくと思わぬ過去と現実が浮かび上がってくるという,元新聞記者一人称視点のハードボイルド的な作品。『テロリストのパラソル』を思い出させましたが,構成や〆が雑な感じがしました。警視庁の捜査本部が立つほどの殺人事件でありながら簡単に被害者の入れ替え,海外移出などできるのでしょうか?運びが巧いだけに残念です。
「奪われし声の代償」(伊原柊人)
組織の書き方に十分な配慮,検証をしてください。警察にしても,やくざにしてもその組織をしっかりと調べて書くことによりミステリーのリアリティは高まってきます。素人探偵を主人公する場合は特にそこが重要です。
「アイドルを探せ!」(夏北航希)
本格ミステリーに挑む姿勢は評価します。その設定にどの程度の事件を絡ませるのか,を思考してください。また主人公が何故アイドルになれたのか,小説上の設定ではよくわかりません。設定作りにももう一考してください。
「八年荘の怪事件」(小川将吾)
奇人集団の中で起きる奇妙な連続死。ある種のアンチミステリーの空気があり,奇人集団ならではの論理展開やトリッキーな犯行を期待しましたが,あまり感じられませんでした。後半のディスカッションに面白みもあるだけに残念。もっとユーモアと明確なキャラクタライズ,そして世界に見合った仕掛けが欲しかったです。
* 書き込まれた内容につきましては、掲載前にチェックを行います。
(すぐには掲載されませんので、ご了承ください。)
こうもり通信のご利用にあたり、注意事項などをおしらせしています。ご利用の前に必ず一読ください。