ホラーとファンタジーを融合させてミステリで糊付けしたような、ひとことでは言いがたい不思議な印象の作品でした。個性的で面白いとも言えそうですが、ミステリとしての弱さ、結末の弱さが全体の評価を下げていると思います。仕掛け自体は悪くないのですが、それをどう表現するのかがポイントだろうと思います。
今回読ませていただいた作品の中でも文章に安定感のある作品でした。物語の展開や設定が、どこか今までに読んだことのあるもののように感じられてしまったのが残念です。作者ならではの個性を感じられる要素について考えていただくと良いかもしれません。
絶望とカオスの入り交じったディストピアもので、ジャンルとしてミステリとは言いがたいところですが、物語はよく書けていて中に引き込む力も感じました。とはいえ筋立てにはやや無理があり、偶然に頼りすぎの印象です。そのあたりは読者を(一時的にでも)納得させる一段の描写力が必要になります。また、血縁が中心になってくることで世界観が縮んでしまった感じがしました。
全編通じて動きの少ない会話が主体で物語が進むのは、もちろん作者の意図だろうと思いますが、会話自体のテンポが古めかしく、読み進めるのも苦労しました。全体に仕掛けがあるのではと期待もしましたが、それをもすかすことが意図とみえて、ミステリとして成立していないように感じました。
青春小説の空気を漂わせた物語には好感を持ちました。ただ、それに反して動機や事件の背景が生々しすぎ、ギャップを感じました。それがプラスに作用すれば面白いのですが、今回の設定にはそぐわない印象でした。また、トリックは多重構成でひねりもあるのですが、物理的には難しいのではと思います。