殺人事件のたびに手首が持ち去られるという謎がとても魅力的に感じました。事件の検証も丁寧で、後からひっくり返される部分があるのもおもしろいです。ただ、真相は犯人によるモノローグではなく、別の方法で明かしてもらいたかったです。
人物の入れ替わりや、あてにならない記憶など、興味を引く部分は多かったです。一方で、警察の捜査の仕方に疑問が残ります。小説はフィクションではありますが、それを読者に信じさせるために、しっかりと現実的な部分は残してほしいです。また、スポーツをこんなに強調する理由が、いまいちわかりませんでした。
なぜ登場人物たちがこんな口調と言動なのかなと思いました。翻訳物の空気感が出したかったのかもと思いましたが、それはいったい、いつの時代の翻訳ものでしょうか。雰囲気づくりがうまくいかないと、単に古臭く感じられてしまうので、気をつけてください。
クライミングについての描写には、強く引き込まれました。そのようなよいところがある一方で、物語の進め方が基本的に時系列で、単調に感じました。彼女がわざわざこんなことをした理由も弱く感じましたし、真相がすべて、本人による手紙で明かされるのは、おもしろさが減ってしまいます。
警察小説を書きたい気持ちは十分に伝わりますが、この作品の中で要素を詰めすぎています。一つの犯罪の構造に、警視庁全体の各課が関わり、実際の犯人像を含め、複雑にさせてしまうことで、物語の醍醐味を失ってしまいます。一つの部署や組織をじっくり、書き込むことに挑んでください。
福山を舞台にした作品で、警察庁広域重要指定事件支援係の主人公の書かれ方は非常に好感をもちました。また、文章も読みやすく、事件モノを描くのにふさわしいものでした。ただ、派遣捜査官を必要とする事件とするならばもう少し、事件の特異性が必要でその部分でもうひと頑張りがあればと思います。
登場人物が、どうやって生活をしているのか、年齢・家族など細かい説明がなく寓話的になりすぎてしまった印象です。ユーモア小説にする場合でも、もう少し丁寧な描写は必要になります。また警察の描写にもリアリティが必要です。現場への臨場人数、捜査本部がどうやって出来るのかなどももう少し丁寧に描いてほしいと思いました。
「日常の謎」として、実際この世界で起こっていてもおかしくないような事件が描かれていて、とても楽しく読みました。トリックや犯行の動機もしっかりしていますが、ミステリの逆張りとされる部分が、作品の中で目立ってしまっているようで、勿体無さも感じました。