第6回福ミスの第1次選考を通過した18作品のうち,受賞作1作,優秀作3作を除く14作品について、選考を担当した編集者による選評を公表します。
◆第6回福ミス第1次選考通過作品選評(受賞作・優秀作は除く。)
「寡婦の息子 (河谷眞)」
キリスト教早期伝来説を証明づける「物証」を追う,というトンデモ話をベースにしていながら,かなりの点で整合性が取れていて興味深いです。キャラクター設定もうまいが,密室トリックがあまりにも稚拙で残念でした。
「東京スカイツリー殺人事件 (遠野有人)」
スカイツリーでなければならない必然性がありません。謎も少なく,小さく,全体的にこぢんまりとまとまっている印象。仕掛けや驚きが足りないと感じました。
「暗愚な野良犬 (谷門展法)」
警察組織を舞台としたストーリーやトリックが大がかりで、ドラマ性はあったのですが、その分細部の甘さが目立ちました。同表現の多出など,癖のある文体にはややくどい部分が多いようにも感じました。もっと冷静な視点での執筆ができるといいと思います。キャラクタライズはしっかりできていました。
「何も思い出せない (桐島裕)」
どんでん返しの連続,ミスリードのうまさには惹かれるものがありますが,トラウマ,催眠術,洗脳,二重人格などのオンパレードになってしまうと、辟易してしまいます。
「ネイピアの声をきかせて (紫月悠詩)」
魅力的な設定,独自の世界観を作り上げています。しかし,トリックは凡庸で,壮大なテーマなだけにがっかりしました。そもそも「神に近い曲」がどれだけすごいものなのかがわかりませんでした。
「あなたが私に歌うことを教えてくれた (赤池秀文)」
謎を大きく複雑にしようという意気込みはすばらしいと思います。ただ,盛り込んだ要素が多い分,説明が長くなりすぎてしまったことと,謎の中心がぶれているのが残念に感じました。
「K大学の殺人 (杉浦由規)」
一貫して犯人捜しが焦点となる純粋なミステリーで,楽しんで読むことができましたが,最初から矛盾点が多く,無理筋な小説となっています。謎解きにはリアリティも必要です。推敲時に細かく見直すようにしましょう。
「師走のコウモリ (獅生啓翔)」
トリックや細かいネタについて,しっかりと考えられていると感じましたが,鬼塚組のダークサイドや警察との癒着についてなど基本設定がさらりと流されており,納得しきれない部分が残りました。
「A Fortune Teller・或る占い師 (長坂伊佐夫)」
全体を捉えづらいのは,構成に難があるのか。視点人物の混同は措くとしても,過去と現在が結びついたところで驚きや感動があるわけでもなく,ミステリ的な仕掛けがきちっと施されているわけでもなく,物足りない感じがしました。
「金木犀は二度咲く (福田純二)」
レトロな世界観そのものは完成されていましたが,肝心のミステリー部分が物語にうまく組み込まれていないように感じました。トリックにやや無理があったように思います。また感情表現や説明も多いので,もう少し読者に想像させる余白を残したほうがいいのではないでしょうか。
「逆位置の恋人 (河上雅哉)」
タロットカードに重ねたストーリー展開はよく工夫されていて,ミステリーとしての意欲を感じます。しかしカルト集団の存在や,謎解きの独白にはやや独善的な印象を受けました。また人物造形に難があるように思い,リアリティを感じることができませんでした。
「凱旋なき王城のためのオラトリオ (斎藤稔)」
戦時中の謎をテーマにした陰鬱なムードには読ませられました。しかしミステリーとしては意外性があまりなく,真犯人も予想できてしまい残念でした。またそれらが淡々と展開していく印象なので,人間関係を丁寧に描くなど,物語性をもう少し深められれば良かったと思います。
「模型飛行機はどこへ行ったのか (上村桂介)」
不思議な建物の敷地内に「転落死」した男と真っ黒な怪物とともに消えた模型飛行機の謎。物語が全体にばらばらで,どこに芯があるのか分かりません。アイデアや仕掛けには面白いものがありますが,穴が多すぎるのでは。探偵役もいかにもなキャラで新味がありませんでした。
「おやすみコタロウ (宮代匠)」
戦中戦後のアメリカの日本人がたどった数奇な運命を「現在」からひもとくとてもスケール感のある物語。しかし物語の肉付けの部分が盛りすぎのような気がします。またあえてかもしれませんが翻訳調が気になります。長い物語はそれなりに読みやすさを考えなければ読者が置いてけぼりになります。
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