受賞者・優秀作者の紹介

島田荘司選 ばらまち福山ミステリー文学新人賞では,受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
また、特別に設けられた優秀作も,随時,協力出版社から出版されています。
ここでは、今までの受賞者・優秀作者のその後の活動等を紹介します。

松本忠之(まつもとただゆき)

1979年1月18日生。静岡県出身。兵庫県在住。過去に留学と仕事で11年中国に滞在。現在は電機メーカー勤務兼海外MBA受講中。

第15回優秀作

熊猫

 中国の四川省成都市にあるパンダセンターで働く矢部楓は、同センターで唯一の日本人飼育員である。ある日、楓は自分が担当する獣舎内で、女性獣医の死体を発見する。地元警察は、高所からの転落による事故死と発表した。
 一ヶ月後。北京の中央警察から捜査官が派遣されてくる。事故を再捜査するといい、楓は否応なしに、捜査官のアシスタントに任命されてしまう。
 当初、的外れに見えた再捜査だったが、時間の経過と共に、次々と新事実が発覚する。なんと、女性獣医は事故死ではなく他殺だったのだ。
犯人は誰か。動機は何か。異国の地で夢を叶えた日本人女性が、北京の捜査官と共に、難事件に挑む。

著者よりひとこと

この度は優秀作に選出して頂き、島田先生及び関係者の皆様に心より感謝申し上げます。 私は、十年以上にわたり仕事をしつつ執筆を続け、これまでにノンフィクション作品を二冊出版しました。ただ、小説では新人賞に応募しては落選を繰り返していました。そんな中、中国で起こる事件を日本人目線で描写しつつストーリーを進めるという、今回の作風を確立できました。
今後も、自身のスタイルに磨きをかけた作品を書き続けていく決意です。

著作品一覧

森谷祐二(もりやゆうじ)

福島県出身、在住。

第12回受賞作

約束の小説

2020年3月 原書房

 医師の瀬野上辰史は、日本有数の名家である天城家の後継者として、かつて暮らしていた天城邸へと呼び戻された。雪深い、極寒の地にそびえ立つ、規格外の規模を誇る天城邸で辰史を待っていたのは、その帰りを快く思っていない者からの血腥い警告であった。
 やがて警告は現実となる。陸の孤島と化した天城邸で起きる連続殺人。その謎に、辰史と探偵の新谷が挑む。

著者よりひとこと

 この度は「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」という素晴らしい賞をいただきまして、まことにありがとうございます。敬愛する島田先生を初め、賞の運営に携わったすべての関係者さまに心よりの感謝を申しあげます。
 長年に渡る投稿生活を経て、念願の受賞ではありますが、ここがゴールなのではなく、ここからが本当のスタートなのだと自らによくいいきかせて、さらなる努力を重ねていきたいと思います。 

近 況

 編集長にも複数回読んでもらった上で進めていた二作目を半年以上も後になって突然白紙に戻される。
 その件に関して編集者と何度かやり取りをし、その後改めて返事をするといわれたが約二年半以上が経過した現在に至るまで返信なし。
 待っている間に仕上げた複数の原稿を送付するもすべて無視される。
 約一年待ってから編集長に相談するも、その後よくわからないまま今年三月を最後に返信なし。

 以前福山市で島田先生とお会いした際、デビュー当初の知念さんが原稿を放置されたという話を各社編集者さんの前でされており、それを自分は「今の福ミスでは決してそんなことはないから安心して」という前向きなメッセージだと受け取っていたので、なんだかとても残念に思いました。
 まあ、人間としてここまで雑に扱われることは、出版業界以外では普通めったにないことだと思いますので、それはそれで貴重な経験をさせていただいた、と無理やりにでも自分を納得させるしかありません。(2024年3月)

著作品一覧

約束の小説(2020年3月 原書房)

松嶋智左(まつしまちさ)

1961年大阪府枚方市在住。2005年「北日本文学賞」,2006年「織田作之助賞」受賞。

第10回受賞作

虚の聖域 梓凪子の調査報告書

2018年5月 講談社

元警察官にして探偵・梓凪子に舞い込んだ依頼は最悪のものだった。
理由はふたつ。
ひとつは、捜査先が探偵の天敵とも言える学校であること。
もうひとつは、依頼人が、犬猿の仲である姉の未央子であること。
大喧嘩の末、凪子は未央子の息子・輝也の死を捜査することになる。
警察は自殺と判断したにもかかわらず、凶器をもった男たちに襲撃された凪子は、事件に裏があることを確信するが――。
責任を認めない教師、なにかを隠している姉、不可解な行動を繰り返す輝也の同級生――。
すべての鍵は、人々がひた隠しに守っている心のなかの“聖域”だった。

著者よりひとこと

 ミステリー小説が好きで、ずっと書き続けてきましたが、結果が出ないことに疲れ、ミステリーを書くのをやめようかと思い始めていました。今回の作品は、そんな思いと共に仕上げたものです。それが今回、このような賞をいただけたということは、私にとっては正に奇跡を見るような驚きであり、望外の喜びです。
 わたしの途絶えかけた気持ちを太い糸で繋ぎ留めてくださった、島田荘司先生や関係者の皆様に深く御礼申し上げます。このタイミングで授かったチャンスを大切にして、気持ちを新たに、更なる飛躍を目指して書き続けていこうと思います。

近 況

 2024年、辰年です。今年は久しぶりに福ミスの表彰式が行われるということでとても楽しみにしています。
 2023年は、わたしにとって、忘れられない記念の年となりました。本を出していただけたこと、更には黒川博行氏にお話しを伺う機会を得たことです。偉大なミステリー作家を前に緊張しましたが、大変有意義な時間を過ごさせていただきました(拙著『流警』所載)。それに加えて昨年は、推し活として貴重なイベントに参加できたことがあります。長年、ファンとして応援し続けておりました方と、バスツアーで仙台を巡りました。対局のときのお姿とは違って、リラックスされて気さくにお話しくださったことは、わたしの一生の宝物です。そして、そのツアーのなかで震災遺構である荒浜小学校を訪れたことが、心に残りました。当時の被災の状況などを教えていただき、自然災害の凄まじさやその後の復興のご苦労などを直に伺うことができたこと、小学校の窓から見た景色が胸に刻まれ、生涯忘れることのないものとなりました。
 さまざまな経験をした兎年でしたが、今年もいっそう励み、楽しい時間を過ごしていただけるような作品を作りたいと思います。
 今のわたしにできることをとにかく頑張ろうと思えた一年でした。(2024年3月)

著作品一覧

虚の聖域 梓凪子の調査報告書(2018年5月 講談社)
貌のない貌 梓凪子の捜査報告書(2019年3月 講談社)
女副署長(2020年5月 新潮文庫)
匣の人(2021年4月 光文社)
女副署長 緊急配備(2021年6月 新潮文庫)
開署準備室 巡査長・野路明良(2021年9月 祥伝社文庫)
三星京香、警察辞めました(2022年6月 ハルキ文庫)
黒バイ操作隊 巡査部長・野路明良(2022年度9月 祥伝社文庫)
女副署長 祭礼(2022年10月 新潮文庫)
バタフライ・エフェクト・T県警警務部事件課(2022年11月 小学館)
流警 傘見警部交番事件ファイル(2023年7月 集英社文庫)
三星京香の殺人捜査(2023年8月 ハルキ文庫)
出署拒否 巡査部長・野路明良(2023年9月 祥伝社文庫)

松本英哉(まつもとひでや)

1974年生まれ。兵庫県出身。兵庫県在住。

第8回優秀作

僕のアバターが斬殺ったのか

2016年5月 光文社

 神部市旧居留地にある古ぼけたビルの一室。そこは仮想空間『ジウロパ世界』と現実が並存する特殊な場所であった。高校生の日向アキラは、自分のアバターを操作し、遠く離れた家からそのビルの一室に遠隔アクセスした。そこで待っていたのは、セルパンという名のアバターだった。短いやりとりののち、ふたりは口論となり、ついにはアキラの操るアバターがセルパンの喉もとを刀で掻っ切ってしまう。翌日、そのビルの部屋で若い男の遺体が発見された。男は何者かに喉もとを切られ、無惨にも殺されていた。しかもその男は、昨夜セルパンを操作していたプレイヤーであるらしかった。アキラは自問する。「あれはぼくがやったのか?」。果たして男を殺害したのは、本当にアキラなのか。その答えを探るべく、アキラは行動を開始した。

著者よりひとこと

 もう十年近く前になりますが、島田荘司先生のサイン会にて先生からかけていただいた温かい言葉は、執筆を続ける上でいつも大きな励みとなりました。また、そのサイン会直後に立ち上がった“福ミス”は、ずっと進むべき道しるべでした。このたび「優秀作」という身に余る評価を賜り、言葉にできないほどの喜びを感じております。再び背中を押してくださった島田荘司先生と“福ミス”関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。(2016年5月)

近 況

 娘が中学生になりました。
 少し前までサンタクロースの存在を無邪気に信じていた子どもでしたが、成長は早いものです。
 いや、娘にまだ真相を伝えていないので、ひょっとすると彼女は今もサンタの存在を信じているかもしれません。

 数年前の年の暮れのこと。朝、家族でテレビを見ていると、アナウンサーがこんな話題を伝えました。
『今年もデパートではクリスマス商戦が始まりました。見てください。たくさんのおもちゃが店頭に並んでいます』
「サンタってさー」それを見ていた娘が、おもむろに言いました。「…買ってんの?」
 私は返答に窮しました。さて、どう返したものか。ついにサンタの正体を告げるときが来たのか? それともなんとか誤魔化すべきか。そのとき隣にいた妻が、百点満点の答えとなる冷静なひと言。

「知らん」

 あれから数年。サンタの正体に薄々勘づいているだろう娘は、「今年のプレゼント、なにかなぁ?」などと思わせぶりにつぶやいています。(2024年3月)

著作品一覧

僕のアバターが斬殺ったのか (2016年5月 光文社)
幻想リアルな少女が舞う(2018年1月 光文社)